G7 広島サミット
広島の地で核抑止論を誇示
「核に頼る安全保障おかしい」
G7サミット(先進7カ国首脳会議)が広島で19〜21日に開催され、「広島ビジョン」や「首脳声明」、「ウクライナに関するG7首脳声明」を発表して閉幕しました。
「広島ビジョン」は核軍縮に特化した文書。「ロシアによる核兵器の使用の威嚇は許されない」としたうえで、「G7は、戦略的リスクを低減するための核兵器国による具体的な措置の必要性を認識する」などとし、核抑止論を展開。NPT(核兵器不拡散条約)で認められた「核保有国」としての地位を強調しています。対立する国による核の脅しを非難し、自分たちの持つ核は「安全保障の上で必要だ」と正当化するものです。
この「広島ビジョン」に対して被爆者や市民、国際NGO(非政府組織)などから批判の声が上がっています。20日に広島市内中心部で行われた「G7サミットに被爆地の声を!市民行進」では、被爆者で、広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長が「G7の首脳たちは原爆資料館を見学し、どんな感想を持ったのか。なぜそれが非公開なのか。核兵器に頼らなければ世界の安全保障が保てないと考えるのはおかしい」と訴えました。
|
市民行進には被爆者や多くの市民が参加しました |
原水爆禁止日本協議会の土田弥生事務局次長は、「戦争防止のために核抑止論を展開し、核廃絶を究極の目標とした。これでは核なき世界は実現できない」と厳しく指摘。地元紙の中国新聞は21日付の社説で「実効性を伴わぬまま、核廃絶の姿勢だけをPRする『貸し舞台』に広島を利用されては困る」と報じました。
この日の市民行進は海外メディアを含む多くの報道陣の注目を集める中、世界各地の言語で「核兵器をなくそう」と呼びかけ繁華街を行進しました。広島県農民連から、伊藤芳則事務局長が参加しました。
市民社会の言葉ねじ曲げて使用
今回の広島サミットで岸田首相は「グローバルサウスとの連携を強化する」と表明。インド・ブラジルなどの新興・途上国を指す言葉としてメディアも多用しました。
しかしPARC(アジア太平洋資料センター)の内田聖子共同代表は、グローバルサウスとは国際農民組織ビア・カンペシーナのような世界の様々な課題に取り組む人たちが使ってきた言葉だと紹介。「新自由主義的な経済システムによる人権侵害や環境破壊を批判する文脈で、私たちはグローバルサウスの声を聞けと、ずっと言ってきたがG7は聞き入れてこなかった」と説明しました。
しかしロシアのウクライナ侵攻以降、市民社会が使ってきた論理を無視し、利用主義的な発想から突如この言葉を使い始めたと解説。「自分たちの味方を増やすためだ。決してだまされてはいけない。本当の意味でのグローバルサウスが置かれている状況、農業や貧困、債務の問題はG7の国々がつくってきた」と厳しく指摘しています。
食料主権とアグロエコロジーへ
抜本的転換を
農民連とNPO法人・AMネット、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)は5月21日、農民・市民社会組織からの声明を発表しました。要旨を紹介します。
◆
「G7首脳コミュニケ(食料安全保障部分)」および「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」に対する農民・市民社会組織の声明(要旨)
▽首脳コミュニケと行動声明では、世界の飢餓と貧困の原因として批判されてきた新自由主義的な農産物貿易の堅持が繰り返され明らかな矛盾がみられた。そこでは、農民・市民社会から解体と改革を求められてきた世界貿易機関(WTO)を中心とした貿易の堅持が繰り返され、中でも行動声明では、WTOへの言及が繰り返し行われた。
▽日本政府は、首脳コミュニケに「持続可能な生産性向上」の文言と視点を盛り込み、今後は20カ国・地域(G20)農相会合での議論でも積極的に提案するとしている。
しかしその内容は民間や企業主導であり、農民・市民社会組織が求めてきた方向性とは異なる。中でも農民・市民社会組織が国際政策において採用を求めてきたアグロエコロジーという文言が行動声明では使用され、一定の成果と考えるが、文言の使用のされ方と考え方には重大な違いがある。
アグロエコロジーは、農業者がその主権を求めてボトムアップで構築してきた実践でありG7のようなトップダウンの発想とは真逆にある考え方だ。
重要なのは、トップダウンの新自由主義的イノベーションではなく、食料主権と農民の権利に基づいた持続可能な食農政策への転換とボトムアップで参加型のアグロエコロジーへの抜本的な転換を目指す実践だ。農業者の相互の学びの機会を増やし、農民・市民社会組織からの支援を通じ、アグロエコロジー推進を今後の食農政策の主軸に据えるべきである。
(新聞「農民」2023.6.5付)
|