「農民」記事データベース20230501-1551-01

大阪・能勢

生態系の力生かした
アグロエコロジーを実践

吉村農園

関連/休刊のお知らせ

 生態系の力を活用し持続可能な農業と地域づくりを進める「アグロエコロジー宣言(案)」を農民連は今年の25回定期大会で提案しました。各地でその土地の環境を生かして、持続可能な農業と地域をめざし挑戦を始めている農家がたくさんいます。大阪府能勢町で、夫婦で環境負荷軽減などに取り組んでいる、吉村次郎さん(45)、聡子さん(38)を紹介します。


地球温暖化防止へCO2を削減

 吉村農園では次郎さんが露地・ハウスの野菜栽培、聡子さんはハウスイチゴ栽培を手掛けています。

ハウスイチゴを無加温栽培

 聡子さんのイチゴハウスでは去年から暖房による加温をしていません。年間に使用していた灯油は500リットル。二酸化炭素換算で1245キログラムの削減になります。

 能勢町は標高300メートルほどの山間部で朝方は氷点下8度程度まで冷え込みます。加温しないことでイチゴの冬眠や花芽が出ないなど、影響が出る恐れがありました。

 そこで、ハウスの内側に内張りを追加し、冷え込む日にはトンネルでシートをかけて保温性を向上。冷え込みが厳しい日には夕方に地下水を散水し、水の凝固熱を利用して保温を行っています。

 また、定植後の農薬散布を減らすため、アブラムシの天敵であるナミテントウとコレマンアブラバチを導入。さらにイチゴハウス内に麦を植えて、イネ科のみにつくムギクビレアブラムシを住まわせ、益虫がエサ不足で全滅しないよう工夫しています。

 「今年は妊娠中ということもあり、人の手による防除がほとんどできず、天敵任せになっていましたが、どこからかクモなども入ってきて、虫による被害はほとんど抑えられました」

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イチゴ実るハウスの中で聡子さん(左)と次郎さん

 温暖化を意識し灯油消費削減へ

 聡子さんが無加温栽培に切り替えるきっかけとなったのは2018年の西日本豪雨でした。ハウスのトマトが水没し、自らも避難所で2晩を過ごしました。これまではニュースの中の出来事だった温暖化の影響による災害が自らの身に降りかかることになりました。

 さらに、妊娠中に地球温暖化の問題が実は目前に迫っていることを知り、「子どもたちのことを考えると、これまでのように灯油を燃やしてイチゴを育てることはできませんでした」。

子どもたちにいい未来残したい

 子どもたち思い収入減でも継続

 加温をやめたことや農薬の量削減などで10万円ほどの経費削減にもなりましたが、価格の高い2〜3月の収量が減ったことなどで30〜40万円の減収になりました。それでも「もとの栽培に戻したいとは思えません」と聡子さん。「日本人が年間に排出する二酸化炭素は約8トンと言われていますから、1トン以上の削減は大きいと思います」

 直接イチゴを買いに来るお客さんたちにも、その思いを伝えています。「土日の路線バスが廃止されて大変ですが、出産後動けるようになったら、いちご狩りを再開し一人でも多くの人に伝えたい」と話します。

プラスチックマルチやめ
カバークロップを利用

 廃マルチ海外で処分と知り決断

 聡子さんの挑戦を支えたのは夫の次郎さん。悩む聡子さんの背中を「やってみたら」と後押ししました。次郎さんも2年前から「脱・プラスチックマルチ」で露地・ハウスの野菜栽培に挑戦中です。

 「日本の廃マルチを海外に運んで処分していると知ったのがきっかけで、プラスチックマルチをやめることを決断しました」

 吉村さんの農地は何度も大雨により水没や土が流されるなどしており、マルチをやめると土壌が流出してしまいます。「去年、新型コロナのり患中に読んだ本で、カバークロップ(被覆植物)を利用したリビングマルチ(植物マルチ)を知りました。土壌流出を防ぐためにも挑戦してみることにしました」

 カバークロップを使ってイチジクの栽培に挑戦中。リビングマルチとしてヘアリーベッチとエン麦を木の周りに植え、雑草を抑制しています。木が成長したら草を刈り倒して敷き詰めマルチ兼緑肥とする予定です。

 またスナップエンドウやトマトのハウスでは一緒に大麦やライムギをリビングマルチとして導入。一部の畑では緑肥作物を不耕起で3年間続けて作付けし、地力を回復させることも試験的に行っています。

 さらに大麦などは自家採種用に、別のハウスでも栽培もしています。「種も自給できなければ、持続可能とは言えないと思って挑戦しています」と次郎さんは話します。

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カバークロップで覆われたイチジクの木

 持続可能な農業に危機感もって実践

 「温暖化の進行や戦争が近づき、今まで通りの農業ではこの先やっていけなくなる」との強い危機感が取り組みの根底にあります。

 「今は道楽に見られるかもしれません。でも今から準備をしなければいざというときに間に合いません。私たちのような環境に配慮したやり方でもできることを示して、少しずつでもまわりの農家も理解してくれたら」と話していました。


休刊のお知らせ

 次週号(5月8日付)は休刊にします。

新聞「農民」編集部

(新聞「農民」2023.5.1付)
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2023年5月

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