第52回日本農業賞・集団組織の部で
JAやさと・有機栽培部が大賞
有機農業の多彩な取り組み評価
土づくりや地域循環
新規就農者の受け入れ
安心・安全な農産物の提供
JAやさと(茨城県石岡市)の有機栽培部会が、第52回日本農業賞(主催・全国農業協同組合中央会、都道府県農協中央会、NHK)集団組織の部で大賞を受賞しました。
有機農業に取り組むなかで、土づくりや地域循環、新規就農者の受け入れ、安心・安全な農産物の提供などが高く評価されました。
JAやさと専務理事で元有機栽培部会長の廣澤和善さん、前部会長の岩瀬直孝さん、現部会長の田中宏昌さんに話を聞きました。
JAやさとのあるこの地域は、平地の広々とした田畑が少ない、三方を山に囲まれた盆地です。有機栽培部会は1997年に設立されました。先駆的な取り組みの中で、化学物質を添加しない土づくりや、農薬に頼らない防虫ネットや輪作による物理的・耕種的防除を実施することなどで、食の安全という付加価値をつくってきました。年間通じて多品目の有機野菜を生産しています。
みんなで安心して
農業できる環境づくりを
現部会長 田中宏昌さん
JAやさとが運営する「ゆめファームやさと」は、毎年1組の夫婦を受け入れ、2年間かけて有機野菜農家となる準備を進める研修制度を99年から実施しています。田中さんも12年前、研修生から農家の道をスタート。それまでは東京のIT企業に勤めていました。
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収穫間近の長ネギと田中さん |
「研修用ほ場で作付け準備から種まき、栽培、収穫、出荷を学んだ。生活面なども相談できる担当農家がいて、研修生を孤立させない体制があります」
部会員30戸のうち7割が県外出身者です。田中さんはいま、点在する3ヘクタールほどの畑で小松菜、カブ、ホウレンソウなどを作っています。「作付けや収穫が次々きて日々大変です。部会員は、自立した責任ある有機農家として、有機JAS認証を取得します。私たちは、たくさんの人になるべく買いやすい価格で、有機の野菜を届けたいと努力しています」
今年3月に部会長になったばかりの田中さんは「将来的には部会として堆肥場を作ることなど、より良い明日に向かって行くために、みんなで安心して農業ができる環境づくりをつくっていきたい」と話します。
産地として新たな挑戦
国の支援が不可欠
JAやさと専務理事 廣澤和善さん
今回の受賞をきっかけに、地域の中でも有機農業への関心が高まっていると廣澤さんは話します。「野菜は新規就農者も増えて、がんばっていこう、となっているが地元の農家に有機が広がっているとはまだ言えない。特に米のほうは」。昨今の米価格の低迷で稲作をあきらめる農家が増えています。「やさとだけの問題じゃないが耕作放棄地がどんどん増えている。有機の米ならやっていける、という値段で買い取ってくれる話がまとまり、地元の農家が手をあげてくれた。これは本当に大きい。この取り組みが成功すれば、やさとは米の産地としても生き残れるかもしれない」
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懇談する(左から)岩瀬さん、廣澤さん、田中さん |
国の農政についても廣澤さんは要望します。「私たちも努力するが、国の支援も不可欠。中山間地で環境に配慮して、持続可能な農業をする小規模農家を国が支えないと。やさとも小規模農家が圧倒的に多い」。営農を途絶えさせないという視点で、まだまだこれからだと廣澤さんは話します。
味の追求は堆肥づくりから
環境やCO2削減でも強み
前部会長 岩瀬直孝さん
25年前に設立された有機栽培部会。当時の発起人の一人である岩瀬さん。部会ではそれぞれで堆肥を調達していて、岩瀬さんは自家製堆肥づくりを続けてきました。鶏糞(ふん)・もみ殻・米ぬかを混ぜて一年以上寝かせ、発酵させたこだわり堆肥を使い、今は主にじゃがいもやサトイモなどの根菜類を作ります。
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「竹チッパー」で竹を粉砕する岩瀬さん |
「土壌の微生物を大事にしている。自分にとっての農業は味の追求」。そして去年から試作を進めているのが、竹の堆肥化です。「竹チッパー」で細かく粉砕した竹を発酵させてほ場に入れて効果を試しています。「竹チップをサトイモのポリマルチ替わりに覆うやり方もこれから試す。有機農業は、環境の再生やCO2削減の面でも強みがある。消費者も求めている。今年から6戸の農家で有機米づくりを始める。私が4年かけて試験栽培してきた。地元で有機の米を作る仲間も増やしていきたい」
(新聞「農民」2023.4.24付)
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