「農民」記事データベース20230320-1545-01

ミサイルよりもミルクを!


せめて学校給食には国産の脱脂粉乳を

 「日本から酪農・畜産の灯を消すな!」のインターネット署名が1万8000人を超えるなど、運動が国民的に広がっています。

 一方、脱脂粉乳やバターの「過剰在庫」や牛乳の消費低迷を理由に、乳業メーカーは酪農家への乳価引き上げを渋り続け、政府は3月から「乳牛淘汰(とうた)」を推進しています。22年度補正予算に計上された補助金50億円を使って4万頭の乳牛を淘汰。23、24年の2年間にわたって30万トンもの牛乳を減産する計画です。

 しかし、牛乳・乳製品の自給率は21年度でわずか63%。チーズにいたっては13・7%にすぎません。牛乳は「過剰」ではありません。「過剰」なのは輸入乳製品です。

 「児童、生徒の心身の健全な発育」のために輸入脱脂粉乳!?

 とくに問題なのは、学校給食用に輸入脱脂粉乳を関税ゼロで使わせていることです。

 戦後、アメリカで過剰な脱脂粉乳(スキムミルク)と小麦を使ってスタートした学校給食は、今では牛乳が国産・地元産に切り替えられましたが、戦後の名残を強く残しているのが学校給食用脱脂粉乳です。

 同脱脂粉乳はパンの原料として5%混ぜたり、シチューなどの調理用に使われています。

 税関が発行している「すきむみるくちゃん」チラシは「皆様の学校・パン工場・給食センターで使用している給食用脱脂粉乳は、発育途上にある児童、生徒の心身の健全な発育に役立てるために関税を免除して輸入されたものです」と恩着せがましく宣伝しています。

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税関発行のチラシ

 しかし、「牛乳を搾るな。牛を殺せ」という政策が吹き荒れ、「学校給食に地場産・国産を」という要求が国民の声となっている動向からみれば、学校給食用脱脂粉乳をズルズルと輸入に依存し続けるのは時代錯誤もはなはだしいといわなければなりません。

 国産脱脂粉乳を使っているのは10道県――農民連調査

 農民連が各都道府県学校給食会を調査した結果、国産脱脂粉乳を使っているのは北海道、宮城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、長野、岐阜、静岡、青森(調理用のみ)の10道県、依然として輸入脱脂粉乳を使っているのは37都府県にのぼることが明らかになりました(表1)。

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 調査に対し、輸入脱脂粉乳を使っている県からも「本当は国産にしたいけど」「国産に切り替えての声はあります」という回答が寄せられています。いま、統一地方選挙の直前です。「せめて学校給食用脱脂粉乳は国産で」の声を上げるチャンス。酪農危機打開、「学校給食に地場産・国産を」の運動を強めるときです。

 国産切り替えに必要な補助金は1・9億円、トマホーク0・5機分

 農水省は毎年、財務省に学校給食用脱脂粉乳の関税ゼロ輸入を継続するよう要望しています。22年4月には7264トン(生乳換算4・7万トン)の関税ゼロ枠を要望し、その理由を「国産品が十分な国際競争力を確保していない現状では、需要者に対する安価な輸入品の供給を確保する必要がある」としています。

 しかし、北海道の酪農家・川口太一さんの調べではニュージーランド産脱脂粉乳の輸入価格は1キロ500円程度。国産は680円。「国際競争力がない」というほどの差ではありません。

 農水省は「学校給食に国産を」という国民の要求を意識してか、「(国産の)原料費に対する補助等が考えられるが、新たな財政負担が必要となる」として、却下しています。しかし、米飯給食の進展もあって学校給食用脱脂粉乳の需要は年々減り続けており、16〜21年の輸入実績は1500トン。農水省要望枠の2割にすぎません。

 農水省は「新たな財政負担が必要となる」などと脅していますが、同省の試算によると、20年の輸入実績は467トンで、国産切り替えに新たに必要となる補助額は1・9億円(表2)。政府は2100億円つぎこんでトマホーク500機を一挙に購入しようとしていますが、トマホークの単価は4・2億円。トマホーク0・5機分を補助すれば学校給食用脱脂粉乳を全面的に国産に切り替えることができます。19年の輸入量1702トンでも1・6機分にすぎません。

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 武器や軍事物資には大盤振る舞い、国民も酪農家も望む学校給食用脱脂粉乳の国産切り替えには異常なケチケチぶり。

 ミサイルよりもミルクです。「せめて学校給食用脱脂粉乳は国産で」の声を大きくするときです。

 飼料用脱脂粉乳の輸入枠はカレントアクセスの3・5倍

 もう一つの問題は、子牛や子豚に与える飼料用脱脂粉乳の関税ゼロ輸入です。

 その輸入枠は生乳換算48万トンで、政府が「国際的義務」だと言い張るバター・脱脂粉乳のカレントアクセス(現行輸入機会=CA)13・7万トンの3・5倍です。

 輸入実績は輸入枠の3〜4割止まりです。おそらく酪農家や農協の「自助」努力によって国産脱脂粉乳や生乳が使われているためでしょうが、それでも20年の輸入実績は2・4万トン(生乳換算15・4万トン)で、飼料用脱脂粉乳だけでカレントアクセスを上回っています。

 農水省の試算によれば、飼料用脱脂粉乳を国産に置き替えるための要補助額は92億円程度(表2)。一方、乳牛を淘汰するための補助金は50億円です。

 酪農家が泣く泣く生乳を廃棄し、乳牛を淘汰している現状からすれば、まず不必要な乳製品の輸入を大幅に減らすことを大前提に、乳を絞り、牛を生かすために補助金を出すことこそが求められています。

(新聞「農民」2023.3.20付)
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2023年3月

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