「農民」記事データベース20230313-1544-10

循環型農業を実践する産直運動

土づくり・地域づくりで
日本農業賞を受賞

 第52回日本農業賞(主催・全国農業協同組合中央会、都道府県農協中央会、NHK)集団組織の部で埼玉産直センター(埼玉県深谷市)が優秀賞を受賞しました。受賞の主な理由は「生ごみなどを集めて自ら有機肥料を作り、それを組合員が利用するという循環型農業を実践。また安定的な販売ルートの確保や地域づくり」が評価されました。同センターが取り組んでいる「土づくり」「地域づくり」について、代表理事の山口一郎さんに話を聞きました。


 埼玉産直センター(深谷市)

   代表理事 山口一郎さんに聞く


自前の肥料センターを持ち、
ボカシ肥料を生産者に供給

集団認証とりくみ
地域で信頼を確立

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山口一郎さん

 利根川の本流が近くを流れ、肥沃(ひよく)な低地が広がる深谷市北部に埼玉産直センターはあります。

 循環型の原点は「土づくり」

 循環型農業を進めるうえで、自前の施設として「肥料センター」を持ち、そこで作られたボカシ肥料を組合員である生産者に供給しています。センター内の選果やパック詰め作業で出る野菜残さや、販売先である生協や量販店から出る食品残さが、このボカシ肥料の原料になります。民間リサイクル施設内で発酵処理された野菜・食品残さを肥料センターが買い取り、別で購入した魚粉や綿実油かすなどの有機質原料と混ぜて発酵させペレット化します(別図)。

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図:埼玉産直センターの生ゴミ資源化リサイクルシステム

 「この循環型というところが一番評価されたと思う。土づくりが基本、という考えが元々ある」

 化学肥料に頼らないやり方を模索

 「昔の農家はみんな複合経営だった。要するに田んぼがあって、畑があって、家畜がいた。今でいう循環型ができていた。それが農業基本法ができて、米は米農家、野菜は野菜農家となり、農薬や化学肥料に頼るようになった。そして土が痩せていった」

 病気や連作障害が頻発する土では健康な作物は作れない。山口さんが続けます。

 「微生物農法などを学び、昔やられていたことをやろう、と。堆肥を入れて、緑肥をつくって。手間はかかるけどね。だからずっとやってきたことを今回評価してもらったんだ。決して新しいことをやってはいない」

 山口さんは気さくに笑います。

 地域づくりにも大切に取り組んでいます。現在野菜など45品目を扱い、出荷する組合員は225人です。経営規模も様々。信頼される組織づくりのため、埼玉県が行う集団認証S−GAP(注)に取り組んでいます。

 「集団として評価される中で、食べる人の安全への配慮や持続可能な農業に取り組む他に、普段の農作業や経営管理に潜むリスクなどに気付くことができる」

 豊作を喜べる地域づくり

 生協などの販売先や消費者など、顔が見える信頼関係を築いていく組織づくりとして、S−GAP以前からこういった取り組みを続けてきたと山口さんは話します。

 「大事なことは『豊作を喜べるシステム』を皆で作ること。安く買い叩かれることなく農家の利益になるようにする。だから集団認証含めて地域の皆でやっていこう、と。そういう営農を続けられたら、後継者問題も深刻化しない」

 地域で小・中学校の施設見学や体験農業、大学生のインターンシップなどを積極的に受け入れています。野菜の品目ごとの部会活動も活発で、センター内の直売所には多くの人が訪れます。

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産直センター内の選果センターを社会科見学する小学生たち

 「コロナでかなり活動が制限されてきた。それでも、遠隔で会議室にいる相手に畑の作物の出来栄えを伝える工夫などをして、何とかやってきた。今年から対面の機会をまた増やしていく」

 マルチ・ビニールなどの農業資材の高騰や、入荷困難になるかもしれない不安は続きます。肥料センターで購入している有機質肥料の原料価格は、前年比170%になっています。

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トマト生産者の皆さん

 楽しみながら今後に向き合う

 「今後の課題は、センターで選果やパック、セットを担ってくれている従業員の確保を維持できるかどうか。これまで通り、生産者にはものづくりに集中してもらいたい。機械化や自動ラインの導入を検討している」

 最後に地域づくりの秘訣(ひけつ)を聞くと。

 「しっかり遊ぶことだよ。うちのセンターには、生産者と従業員でつくるゴルフ部会やカラオケ愛好会、ランニングクラブにモーターサイクルクラブがある。今月は洋食レストランで、男女の出合いの場として農コンもやるんだよ」


 S−GAP(エス・ギャップ)(注)とは

 GAPとは「農業生産工程管理」のこと。第三者認証を受けることで客観的な証明を得ることができる。国内の主なGAPには、JGAP、ASIAGAP、グローバルGAPなどがある。

 S−GAPとは埼玉県が独自に策定したGAP。食品安全、労働安全、環境保全の3本柱で約50の項目からなる。自己チェックと県の評価員による訪問で農場評価をおこなう。埼玉産直センターは2017年にS−GAP認証第1号団体となった。

(新聞「農民」2023.3.13付)
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2023年3月

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