循環型農業を実践する
池田牧場(東近江市)を訪ねて
滋賀県農民連 東野 進
持続可能な家族経営こそ
農業のあるべき姿
酪農危機突破中央行動に向けて、政府への要望書を届けるべく久しぶりに古くからの親しい友人、滋賀県東近江市の池田牧場を訪ねました。
新鮮な牛乳を届けたいと開店
東近江市の奥永源寺一帯の山村景観は日本遺産「水と暮らしの文化遺産」指定され、風光明媚(び)な心和む地です。この近くの山間の「あいきょうの森」に創業25年の池田牧場の「ジェラートショップ香想(こうそう)」があります。経営する池田義昭さん、喜久子さん夫婦は1968年に父の酪農を継承して以来、新鮮な搾りたて牛乳の味を届けたいと、97年にはイタリアンジェラートの開発に取り組みました。
当時は関西の酪農家では初めての試みでした。その絶品な味を求めて、今や県内はもとより、北海道から沖縄まで全国各地にリピーターがいます。
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池田喜久子さん(香想で) |
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池田義昭さん(牛舎の前で) |
義昭さんに話を聞きました。
――なぜアイスに? 「冷凍品で賞味期限がない」。これが決め手でした。「アイスクリームと違いベトつかずさっぱりとしたジェラートを」と2人の思いは一致し、喜久子さんが本場イタリアへ単身視察研修に行かれたそうです。帰国後製品化へ試行錯誤を繰り返し開発に取り組み、品目は季節限定品も含め今では30種類を超えています。
欲しい人は来て! 自然が一番の
ご馳走、人間にとってそれが一番大事
大規模・効率化一辺倒を改めよ
酪農の現状について、「最悪な状態に近づいている。何よりも食料を国がどう考えているのか」「規模拡大・競争力を言うが、農業という概念から見ると違う目で見なければ」との指摘。「何十年も前から家族経営と地域との循環型の酪農ができてきたが、今、耕種農家もあまり田畑に還元せず、化学肥料と農薬できれいな農業をやって効率追求に走り、自然界の摂理に目を背けている。それがどこまで続くのか?」と懐疑的です。
2003年にジェラート部門を自然豊かな「あいきょうの森」へ移設。ジェラートに関しては「店を出してほしい」との誘いが多くありましたが一切応じませんでした。「店の間口とついたては広げ過ぎたらこける」との教えを堅持したとのこと。「欲しい人は来て! 自然が一番のご馳走、人間にとってそれが一番大事」
――今まで心がけてきたことは? 「悩んだときは失敗して後悔するか、何もしないで後悔するかを考える。あいきょうの森への移転も集落では笑われながら、もしこけたら住むところもなかった。失敗・成功は次の話、後悔しても自己満足は残る。ジェラートは収益性も良く自己資金なしでの資金準備(借り入れ)ができ夫婦の合意で突き進んだ」とのことでした。
今の農政については?「食料自給率38%を改善しようとして補助金を出して規模拡大を勧めるが、輸入の肥料・飼料も無限にあるものではない。知っていながら工業化された農業しか計画・提案できない。人間にとって何が大事か。循環を基にした持続可能な農業でなくては!」と話が弾みました。
酪農についても、「補助金出して増頭させ、揚げ句に生産過剰だから牛を減らせ、減らした分に補助金を出す。こんなめちゃくちゃな場当たり的なやり方はだめだ! 企業的に規模拡大して数字を求めるだけでは生き物を管理できない」と怒り心頭でした。
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元気な池田牧場の牛たち |
アグロエコロジーは希望の道
地球やばいぞが現実味を帯びる
「肥料・農薬をバンバン使う慣行農業でなく、1000年、2000年続いてきた農業こそが本来の慣行農業、持続可能な農業であるべき。工業も地球のことを考えずに進めているが、いずれしっぺ返しが来ると思う。地球やばいぞ!が現実味を帯びてきている」
「一緒に声をあげよう」と誘うと、「スピードがついていけないので、炭を焼いて割り木を作って自然の中でどう生きていくか。中山間の中で循環できることは取り組んでいく。のんびりとできる範囲で」と見据えます。
ジェラート部門は娘さんご夫婦に任せられたようです。この部門を支えた喜久子さんは滋賀県農業委員会の会長も経験。肝っ玉母さんが次に何をしてくれるのか、大いに楽しみです。
対話の中に「経済優先・循環・持続可能」が幾度となく登場しました。農業者のあるべき姿勢を貫き通した含蓄ある思いを多くお話しいただきました。私も思いが同じで話が弾み、きわめて懐かしく楽しい訪問となりました。
「今、世間はあなた方を必要としているよ!」と2人へのエールをつぶやきながら帰路につきました。やっぱりアグロエコロジーは希望の道です。
(新聞「農民」2023.2.13付)
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