今、政治を変えないと
日本は滅んでしまう
特別寄稿 酪農の危機に思う
慶応義塾大学名誉教授・憲法学者
全国革新懇代表世話人
小林 節
日本の農業をアメリカ資本のグローバル企業に献上
悲惨な現状は長年にわたる政治の無策の結果
野党共闘に全野党を追い込むことが市民運動の役割
誰もが「食べて」生きている
私は、東京で生まれ育ち学校に通い、そのまま学校に就職して定年まで務め、今は、横浜で暮らしている。ずっと都会生活である。
そして、独身時代は母親が用意してくれた食事をとり、結婚してからは妻が作ってくれた食事で生きてきた。外ではプロが調理してくれたものを食してきた。だからか、その「食材の生産者」のことを自分と関連付けて意識することは少なかった。
しかし、今、改めて考えてみたら、父(故人・教員)は信州の農家の次男であり、妻の父(故人・材木商)の実家は北海道の酪農家である。
ところが、最近、憲法学者として革新懇運動に参加して、全国の代表世話人会で毎月、長谷川敏郎・農民連会長のお話を拝聴しているうちに、自分も国民の一人として農業生産者が作って下さったものを食べて生かされている……という当たり前な事実に、今さらながら気付くことができた。
うそをついた自民党
もう40年近く前のことであるが、駆け出しの憲法学者の私は自民党のブレーン気取りであの党の勉強会に出席していた当時、権力者たちは「食糧安全保障」だ、「食料自給率の向上」だ、「日本を取り戻す」のだなどと声高に叫んでいた。
ところが、当時の食料自給率はカロリーベース(C)で53%、生産ベース(P)で77%であったものが最近ではC38%、P63%に減ってしまっている。全く役に立たなかったというよりも「うそつき」の政治家たちであった。
彼らが国家権力を握って「食料自給率を『上げる!』」と公言しておきながら「下げた」のだから、彼らは「うそつき」以外の何者でもない。思えば、TPP(環太平洋連携協定)問題でも、「参加しない」と言って総選挙を戦い勝利しながら即、交渉に入ったのも彼らであった。そして、結果として日本の農業をアメリカ資本のグローバル企業に献上してしまった。
私の専門分野である憲法問題でも、「日本を取り戻す」と言っていた権力者たちがしたことは、解釈改憲(などという「違憲」な解釈?)を強行して、自衛隊を米軍の二軍のようにして、型式の古い米軍の兵器を相手の言い値で爆買いして、日本国を破産させてしまった。
私は牛乳が大好きだ
「日本人の腸内細菌は牛乳に適していない」などと言われる。しかし、私は牛乳が大好きである。だから、アメリカに暮らした3年間とカナダに暮らした3カ月は天国のようであった。水のように牛乳を飲んでいても誰にも怪しまれないことがうれしかった。今でも出張でホテルに泊まる際は、まずコンビニに行って牛乳を2パック買い冷蔵庫に入れる。就寝前と起床直後に各1パック飲む。
今、日本ではこの牛乳というよりも酪農が危機に瀕(ひん)しているというニュースを見る度に心が痛む。牛乳を水のように飲み、チーズが大好きな私にはまるで人生の「危機」である。
酪農は一朝一夕に確立できるものではないし、また、一朝一夕に滅びるわけでもない。要するに、悲惨な現状は長年にわたる政治の無策の結果に他ならない。
政権交代で「農家の戸別所得補償」を実現すべきである
尊敬する山田正彦弁護士(元農水相、農業経営者)から聞いた話だが、世界一の農業大国アメリカは農業生産者に価格保障つまり戸別所得補償を行っている。思えば当たり前な話である。国家の3要素(国民集団・国土・主権〈統治権力〉)の第1要素である「国民」の生命を維持する食糧が、弱肉強食の自由主義的資本主義の競争原理にさらされていて良いはずがない。食糧は国家のすべての「基(もとい)」である。
こんな当たり前なことも心得ていない自公政権は、本務を忘れて権力の私物化・世襲を進めながら、長年にわたり、国家権力と国家予算を使って自分とお友達だけを優遇する政治を行ってきた。その結果、今では国家を破産させて国民大衆を貧しくしてしまった。もはや、この事実は隠しようもない。あのモリ・カケ・桜・東北新社等はその氷山の一角で、政治家に隷従する官僚たちが事実を隠ぺいしているためにその中の一つも立件されず、当事者たちは責任を取っていない。もう、こんな政治は止めさせなければならない。だから、政権交代である。
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「畜産・酪農を守ろう」と生産者、消費者が駆けつけました=11月30日、農水省前 |
今こそ市民と野党の共闘を
現行の選挙制度の下では、自・公が一体化している以上、野党が一つにならない限り政権交代は起こりようがない。自公と野党の得票率はそれぞれ40%台で拮抗(きっこう)している。特に、国葬、旧統一教会、敵基地攻撃能力、防衛費倍増等で政権の求心力が下がっている今こそ、野党共闘の好機である。
ところが、野党共闘というと必ず「野合ではないか?」「政策はどうするのか?」という批判が返ってくる。しかし、神道政治連盟と旧統一教会に支えられてきた自民党と創価学会政治部として発足した公明党の連立こそが分かりやすい「野合」である。政策も「憲法を回復して生かす政治の実現」という野党統一政策でどこが悪いのか?
ただ、野党共闘の話になると、必ず主導権争いが始まる。だから、国政選挙の前に来る統一地方選挙は特に重要である。各野党はここで競り合って頑張ってそれぞれに足腰を強くしてほしい。その上で、国政選挙では、政権交代の「大義」のために我慢してでも協力すべきである。それができない万年野党などは、主権者国民の役に立たない不要な存在である。
野党共闘に全野党を追い込んでいくことが市民運動の役割である。
農民連の皆様には革新懇での連帯に感謝している。
(新聞「農民」2023.2.13付)
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