=寄稿=
最悪の酪農情勢を乗り切るためには
安全安心な国産牛乳を生産する会
獣医師 加藤博昭
酪農崩壊の回避へ国は責任果たせ
乳価引き上げに、消費者も理解を
日本の酪農がいま直面している厳しい現状について、「安全安心な国産牛乳を生産する会」の事務局長を務める、千葉県の開業獣医師の加藤博昭さんに寄稿してもらいました。
「安全安心な国産牛乳を生産する会」は、2008年に飼料が高騰し、酪農経営がひっ迫した時に酪農家と関係者で立ち上げました。全国の有志に声をかけ、東京・日比谷野外音楽堂での決起大会や有楽町でのデモで乳価値上げを訴え、全国から1万人の署名を集め、関東生乳販連や農水省や乳業メーカーに陳情しました。
今回の飼料高騰は08年の比ではなく、酪農の歴史始まって最大の危機です。この最大の危機を乗り切るために多くの有志とまた立ち上がりました。
いまの酪農危機が今後数カ月続くと、産業として崩壊します。国産の牛乳、乳製品、牛肉の生産はほとんどなくなることでしょう。酪農家の廃業倒産に連動して取り巻く関連産業や雇用も崩壊していくでしょう。
輸入依存は世界的な飢餓に直面
今の乳製品の輸入は、原料となる生乳に換算して、年間で500万トンです。一方、国内生産は760万トンです。
しかし本当に今後もずっと永遠に必要とする量の輸入が保障されるでしょうか? それで本当に食料安全は保障されますか? 異常気象や地震、さらに紛争などがあれば、牛乳・乳製品に限らず日本人の食は飢餓に直面します。
飼料高騰が打撃 生活費も事欠き
酪農家の赤字の原因としては、諸物価の高騰や為替レートの問題も大きいですが、家畜の飼料の高騰が最も影響が大きいです(図1)。21年後半から輸入飼料の価格が高騰しはじめ、22年10月では生産乳代金で飼料費を支払えない農場も多いようです。日々赤字の牛乳生産が続いています。
酪農家は預貯金を切り崩し、生命保険の解約や、返済計画の立たない借り入れで、生乳代金では足らない電気代金や雇用費などを支払っています。本当に生活費がありません。
「売るな、捨てろ」ばかりの国の対策
国は、「配合飼料の安定基金が払われており、高騰分はそれで補てんできるはずだ」と言っています。しかし飼料価格はここのところ毎月、急激に上がっています。とても足りません。とくに価格が上がっている飼料は、価格安定制度がない輸入乾草です(図2)。乾草は23年1月にはさらに値上がりします。
配合飼料の価格安定基金にしても、国の補助は異常補てんの半分です。飼料メーカー分の負担は最終的には飼料価格にはねかえることになり、主には農家の積立金です。
一方、この厳しい酪農経営のときに、国の対策は、赤字経営のなかでも死に物狂いで搾っている酪農家に、牛乳を「売るな!捨てろ!」と言うくらいです。鬼でもこんなことはしない。
また国は「脱脂粉乳の在庫が多く需給バランスが崩れている。まずこれを解消しなければ、対策は立てられない」とも言っています。
14年にバターの在庫がなくなり、大騒ぎになりました。それ以降、「規模拡大しろ、増産しろ」と政策金融公庫の融資や国の補助事業が展開され、増産が推し進められてきました。その結果、19年には需給バランスが崩れ、在庫が増え始めました。なぜもっと早急に方向転換と対策をしなかったのか!
国はこんな最悪の状態で、生産者に全ての責任を取らせようとしています。しかし元をただせば国の責任ではないですか。
国産牛乳存続へ乳価引き上げを
国に対策を求めるだけでもダメです。とにかく生産乳価(牧場に入る乳代)の引き上げが必要です。生産乳価が上がれば、スーパーの牛乳パックや乳製品の価格も上がります。消費者の皆様には、これを理解して頂きたい。乳業メーカーは消費量が落ちることを懸念して、生産乳価を上げてくれません。しかしこのままでは本当に国産牛乳は激減してしまいます。
酪農家は、自信をもって牛乳を生産し、消費者にお届けしています。もっと厳しい乳質基準にしても良いくらいです。だから乳価を上げさせてください。後押ししてください!
酪農産業崩壊まで、もう時間がありません。
(新聞「農民」2023.1.23付)
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