「農民」記事データベース20230116-1536-01

原発政策
低減から活用に大転換

 岸田政権は、これまで「原発依存度を可能な限り低減する」「新増設は考えていない」としてきた基本方針を覆して、「最大限活用する」方針を公表しました。昨年12月22日に開催された脱炭素社会の実現に向けた検討を行う「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」で、原発の運転延長や新増設などを盛り込む基本方針を示したのです。5カ月足らずの議論で国民の声も聞かずに大転換する暴挙です。
 基本方針では「温暖化による気候危機と、ロシアのウクライナ侵攻などによりエネルギー危機に直面している」と言いますが、「クリーン」でも「グリーン」でもない原発推進への逆戻りに、国民から怒りの声が上がっています。


原発事故の反省かなぐり捨て
新設・老朽原発延命・再稼働推進

 最長60年を延長 老朽原発を酷使

 老朽原発を動かすことは極めて大きな危険を伴います。このため、2012年の原子炉等規制法改正で原発の運転期間は原則40年、一度だけ20年延長できると定められています。

 しかしGX会議の方針では、「原子炉が止まっていた時間を運転期間に含めない」と方針を転換。福島第一原発事故後の約10年間は多くの原発が稼働停止となっていたため、事実上、ほぼすべての原発が延命されます。

 運転が止まっても施設の老朽化は止まりません。関西電力の高浜原発(福井県)では蒸気発生器の配管が劣化で損傷しました。また過去には点検漏れによる事故で死者が出た原発もあり、運転延長は点検漏れがあった時のリスクを高め、重大な事故につながりかねません。

 東芝の元社員で原発設計技術者、後藤政志さんは、「運転停止が続き、設計者も運転者も経験のない人が増えており、衰退産業となっている。原発からは脱却すべきだ」と12月21日の記者会見で述べています。

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 原発推進では温暖化止まらず

 今回、気候変動対策の方針の中で原発推進が掲げられています。しかし、原発は気候危機対策の特効薬にはなりえません。明日香壽川(じゅせん)さん(東北大学東北アジア研究センター教授)は「再生可能エネルギーの数分の一しか削減効果がなく、新設では成果が出るまで10年以上かかる。しかも雇用も生まず事故リスクや廃棄物問題もあり、緊急の対策が必要な気候危機に対して原発は最悪の選択だ」と批判しています。

 不足も解消せずツケ子孫に残す

 方針では次世代革新炉の推進をうたっていますが、実用に達しているのは従来の軽水炉を改良した「革新軽水炉」のみです。しかも早くて30年代半ばの稼働を見込んでおり、電力危機への対応には全く役に立ちません。

 しかも原発から出る放射性廃棄物の問題は、解決のめどが立っていません。使用済み核燃料の貯蔵量が7割を超えている原発が7カ所もありますが、青森県六ケ所村にある使用済み核燃料の再処理工場は26回も完成が延期され、当初予定から25年たっても稼働の見通しはありません。

 また、燃料の再処理がうまくいっても、原発が放射性廃棄物(使用済み燃料含む)を生み出すことに変わりはなく、問題を先送りするだけです。

 最終処分についても北海道の2町村が文献調査に手をあげましたが、北海道知事が受け入れ反対を表明しています。また、処分といても地中深くに埋めるだけで、数万年以上にわたって放射線を発し続けるため管理・監視を続ける必要があります。原発を動かすことは「子孫へのツケ」を際限なく増やす行為にほかなりません。

 ましてや事故をひとたび起こせば甚大な被害があることは、いまだにふるさとに帰れない人が多くいる福島の現状を見れば明らかです。

 基本方針は、パブリックコメント(1月22日締め切り)後、閣議決定される見通しで、国会での採決はありません。基本方針の撤回を求め、パブリックコメントに、全国から反対の声を集中させましょう。

(新聞「農民」2023.1.16付)
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2023年1月

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