「農民」記事データベース20221219-1534-01

EU・アメリカ並みなら
乳価は140円以上に

日本だけ低迷

関連/金谷雅史さん(千葉市花見川区)の牧場へ
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EUの乳価は1.6倍、アメリカは1.3倍に

 「増え続ける借金を重ねながら365日、牛乳を搾っています。酪農は壊滅の危機です」――農民連と食健連が共催して開かれた「11・30畜産危機突破緊急中央行動」で、千葉市の酪農家、金谷雅史さんは子牛をわきに引き連れて悲痛に訴えました。

 しかし、政府は危機を打開する対応策を何ら示さないまま12月を迎えました。

 11月30日に農水省が公表した農業物価指数で飼料代の高騰は1・5倍で、乳価は低迷したままです。

 農水省の生産費調査と農業物価統計にもとづいて試算すると、20年から22年10月の間に牛乳生産費は1キロ28円、33%上がっており、酪農家の家族労働報酬23円はゼロどころかマイナスになっていることは確実です(表)。

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 EU・アメリカ並みに上がれば

 しかし、EU(欧州連合)とアメリカの乳価は20年対比で1・6倍、1・3倍と、日本の乳価の低迷とは対照的に飼料代を上回って上昇しています(図)。アメリカは4〜6月には1・5倍で、EU以上に上昇していました。

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 日本でもEU・アメリカ並みに乳価が上がれば、1キロ(リットル)当たり58〜35円アップの163〜140円になります。酪農家が実感している希望乳価130〜140円に匹敵します。

 この違いはいったい何なのか――。最大の違いは、アメリカとEUがコスト高騰分と乳価の差額(赤字)を補てんする政策を維持しているのに対し、日本にはないことです。

 アメリカの 「酪農マージン保護計画」

 鈴木宣弘東大教授によると、アメリカは2014年農業法で、乳価が生産費を下回った場合には、その差額(=マージン)の90%を政府の財政負担で支払う「酪農マージン保護計画」を導入しています。

 農家に莫(ばく)大な掛け金負担を求める日本の収入保険や牛肉・豚肉の価格補てん制度(マルキン)とは違い、酪農家の負担は1経営当たり年間約1万円の登録料の支払いのみ。登録料1万円で、100頭経営で約700万円の「最低所得保障」が得られる仕組みです。

 また、酪農家に最低限支払われるべき加工原料乳価は連邦政府が決め、飲用乳価に上乗せすべきプレミアムも2600の郡別に政府がきめ細かく設定しています(鈴木教授、農業協同組合新聞、22年8月18日)。

 生産者の交渉力を強化するEU

 EUは、政府による需給調整と乳価の下支え制度を維持しているのに加えて、生産者と加工業者の間の契約関係をコントロールし、生産者の交渉力を強化して牛乳の買いたたきを防ぐことに力を入れています。両者の契約締結に当たっては、生産費を基礎にした価格の算出方法などを取り決め、フランスではコスト高騰の場合、乳価を自動改定する仕組みが動きだしています。

 その結果、国際乳価が上昇していることもあり、EUの乳価は順調に上がっています。

 日本でも赤字補てん制度を

 間もなく生乳生産量の48%を占める加工原料乳価格の改定が行われます。

 しかし「現行の算定ルールでは、10円程度の補給金額にコストの変動率をかけるだけなので、せいぜい1円程度の引き上げにしかならず、飼料代が30円上がっていても1円しか上がらない。2000年以前の保証価格の算定のように、コスト上昇分が額として反映されるような算定方式への変更が必要」です(鈴木教授)。

 もちろん、生産者乳価引き上げがそのまま牛乳・乳製品の値上げに直結するのでは、物価高に苦しむ消費者にとって打撃です。生産費を償う価格と消費者が買える価格とのギャップを補てんして両者を助けるのが政治の役割です。

 酪農危機打開のためには、(1)飼料高騰に対する緊急対策を抜本的に充実させること、(2)加工原料乳の保証価格を大幅に引き上げること、(3)アメリカの制度を見習い、日本でも四半期ごとの生産コストと乳価との差額の9割を支払う赤字補てん制度(酪農版マルキン)を導入することがどうしても必要です。

 また、脱脂粉乳やバターの過剰在庫が乳価引き上げ拒否の理由になっていますが、需給緩和は酪農家の責任ではありません。過剰在庫を抱えながら「国際ルール」を口実にズルズルと輸入を続ける政府のやり方を転換すべきです。


農水省前集会で訴えた

金谷雅史さん(千葉市花見川区)の牧場へ

長谷川会長、小倉副会長が訪問

 「11・30畜産危機突破 緊急中央行動」で、「酪農、やばいです」と窮状を訴えた千葉県千葉市の酪農家、金谷雅史さんの牧場を、農民連の長谷川敏郎会長と小倉毅副会長(千葉県農民連副会長)が12月3日に訪問しました。

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右から金谷さん、長谷川会長、小倉副会長

 集会での金谷さんのスピーチはユーチューブでも発信されており、大きな反響を呼んでいます。「今後も協力して、運動を広げていきましょう」(長谷川会長)と、確認し合いました。


休刊のお知らせと新年号のお届け
 次号の12月26日付は休刊にします。
 次週は2023年1月2・9日付合併号(新年号)を1週間早くお届けし、年末年始の配達はありませんのでご了承ください。
(新聞「農民」編集部)

(新聞「農民」2022.12.19付)
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2022年12月

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