諫早湾の開門をめぐる
2つの訴訟が進行中
最高裁
開門要求退けた不当判決の
破棄を求めて上告、審理中
司法ルール逸脱 事実誤認も多い
諫早湾の開門をめぐる請求異議訴訟が、最高裁に上告され審理中です。原審である福岡高裁の差し戻し審判決は、司法のルールを逸脱した事実上の「再審」とも言える不当な判決であり、干拓事業や有明海の漁業・自然環境について事実誤認も多くあることから、「有明海漁民・市民ネットワーク」は最高裁に原判決の破棄を求める要請書を10月26日に提出しました。
有明海漁民・市民ネットが要請書
=農民連も賛同=
この要請書には、WWFジャパン、日本野鳥の会、日本自然保護協会、日本環境会議などをはじめ、農民連も賛同しています。
長崎地裁
干拓入植者が欠陥農地の
損害賠償と開門求め裁判
干拓入植者十数経営体が撤退
一方、干拓地の現・元入植者が欠陥農地によって生じた損害賠償と開門を求めている裁判が、長崎地裁で進んでいます。傍聴した「諌早湾干拓問題の話し合いの場を求める会」事務局長の横林和徳さんから、怒りの手記が寄せられましたので紹介します。
長崎県の諫早湾干拓入植者十数経営体が干拓地の排水不良が主な原因で撤退しています。10月12日に長崎地裁で、1期5年で撤退した原告の2人の元営農者が証人として出廷しました。農業生産法人「匠集団おおぞら」の荒木隆太郎元社長は、「広くてミネラル豊富な優良農地」という県の宣伝を信じて入植したと前置きし、以下のことを証言しました。
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優良農地という県の宣伝信じて
ハウスや保冷庫、大型機械の投資は数億円となり、借り入れやリースでまかなった。ジャガイモは晩霜や早霜で被害、しかも排水不良で腐敗。大雨の後は1週間しないと機械も入れられず、その後入れてもジャガイモから土は落ちなかった。
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干拓地(牧草地)で野積みされる未熟堆肥 |
タマネギやショウガは潟に根を張ったヨシやセイダカアワダチソウで被害。タマネギはビニールマルチしても植穴から雑草が出て機械除草は不可能。環境保全型と言われ、除草剤は使わなかった。
撤退した元営農者が証言−
排水不良で作物が腐敗
リース料払えず競売に
キャベツ3ヘクタールも排水不良で100%の被害。ハウスのトマト、キュウリは地下水が上がって収量は目標の半分。
5年たって県から「1300万円のリース料未納があるから出て行け」と責められた。当時は「ハウス建設の補助金の返還はしないでよい」と県は言ったが今は返還を催促。ハウスや施設は競売にかかり4700万円で売却。それでも多額の負債が残り、家も農地も手放した。
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以上のことを聞き、県が宣伝した「優良農地」が欺まんに満ち、その結果悲劇を生んだこの事態は、撤退者の技術力の問題ではないことを痛感しました。
実効ある対策とらなかった
国と県の無責任さ
地域住民を分断しつづける行政
入植に当たり、県が8年間の現地試験をもとに作成した「諌早湾干拓営農技術対策の指針」は10メートル間隔で地下1メートルに設置された本暗渠(きょ)に加えて、もみ殻投入による補助暗渠の設置を強調しています。しかしこれは個人の力では無理でした。熟畑化には緑肥の2年間4作栽培での鋤込み、それに1ヘクタール牛ふん堆肥20トンの2年連用の対策をあげています。だとしたら、少なくとも数年は10アール当たり2万円のリース料は取らない措置が必要でした。このような実効ある対策をとらなかったところに国・県の最大の無責任さがあります。
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著しく地盤沈下した干拓地の営農支援センター |
国や県は住民の防災対策の要求で、本来必要な排水ポンプ増設や堤防強化の対策は取らず、複式干拓事業にすり替えてきました。その結果、調整池に溜まった淡水を時々放流し、海を貧酸素にして漁業を疲弊させています。行政は不確かな情報を流し続け、住民を分断しています。今こそ地域での話し合いが求められます。
(新聞「農民」2022.11.7付)
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