統一協会 ここが問題
全国霊感商法対策弁護士連絡会
弁護士 阿部克臣
関連/統一協会と政治の癒着を正せ
信教の自由を侵害
いま話題になっている統一協会の問題点について、全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士、阿部克臣さんに寄稿してもらいました。
統一協会とは何か
本年7月の安倍元首相銃撃事件以後、統一協会によるこれまでの多くの被害が報道されるようになりました。多くの方が、統一協会は「反社会的団体」であるとの認識を持っていると思います。しかし、統一協会の何が問題なのかは正確に理解されていません。
問題は数多くありますが、最大の問題は、憲法上保障された国民の「信教の自由」を侵害していることです。
統一協会が長年続けてきたやり方は、「正体を隠した勧誘」と呼ばれるものです。典型的には、街頭で「人生の勉強をしませんか」「手相を見ます」などと言って、宗教とは全く無関係を装って声をかけます。巧みに悩みを聞き出し、家族や友人には言わないように口止めをした上で、カルチャーセンターのような施設に通わせたりセミナーに参加させたりして、知らない間に少しずつ教義を教え込んでいきます。
「原罪」(人が生まれながら持っている罪)や「先祖因縁」といった「恐怖」を強く植え付けていきます。「文鮮明(教祖)がメシア(救世主)だ」と明かすのは、教義を教え込み、「恐怖」を植え付けた後なのです。明かされた時点ですでに「恐怖」を脳裏に強く植え付けられていますから、離脱は困難となっています。統一協会の教義で、救いを得るためには財物を全て神(統一協会)側に「復帰」しなければならないため、信者になった後は、「恐怖」から逃れるためにおのずと多額の献金をしていくことになります。
「信教の自由」というのは、信仰しない自由、どの宗教を信仰するかを決める自由も含みます。どの宗教を信仰するかは、その人の人生そのものを決めるに等しい極めて重要な決断です。宗教とは、「神」などの超自然的・超人間的な存在を確信し崇拝する行為ですから、いったん信じてしまうと、外部からいかに論理的に批判しても離脱させることは困難となります。
信仰するかどうかを決めるための情報を与えないまま、教義を教え込み、「恐怖」を植え付けていき、いつの間にか隷属させ、金銭・労働力を収奪するとともに、家族との関係も断ち切り、加害者にしていく、このような「信教の自由」を侵害するやり方が最大の問題です。その他にも、合同結婚式など様々な問題があります。
統一協会の責任を認める民事裁判はすでに30件以上積み上げられており、刑事事件でも信者個人・関連会社の責任が数多く認定されています。
政治との癒着の実態
統一協会は古くから「勝共」(反共)を掲げて保守的政治家と関わりを持ってきました。しかし、ソ連が崩壊し反共運動が下火になると、今度は2000年代頃からは「家庭」「夫婦別姓・ジェンダー平等反対」などを掲げて政治家に接近するようになりました。特に12年の第2次安倍政権誕生後は、政治との癒着が露わになってきます。
最近では、地方も深刻な状況です。「日韓トンネル推進○○県民会議」や「ピースロード2021 in○○」などのダミー組織・イベントを介して地方への浸透を図り、地方からの切り崩しを図ってきました。
統一協会側が政治に近づく大きな目的は、教団を守ることです。2007年から10年にかけて、全国の統一協会傘下の販売会社が特定商取引法違反・薬事法違反の罪で次々と摘発され、逮捕者は30名以上に上りました。09年には、「全国のモデル店舗」とされていた東京都渋谷区の印鑑販売会社「有限会社新世」が摘発されましたが、その際、新世、渋谷教会などの関連施設だけでなく協会本部にまで捜索が入りかけたのです。このことを教訓に、統一協会は政治家対策を強化しました。
政治への接近は、教義上からみても必然的なものです。統一協会は、「天一国」なる世界統一国の実現を目指しています。統一協会の教義によれば、日本という国家の主権すらも本来は神(統一協会)の下にあるべきものですが、現実にはサタン(国民)の下にあり、それを政治の力で神側に「復帰」させなければならないのです。
政治家側のメリットとしては、秘書の派遣・後援会の結成・ビラ貼り等の熱心な選挙協力を得られることが一番大きいですが、数万票の統一協会票を得られるというメリットももちろんあります。
統一協会と政治が癒着することによる最大の問題は、立法・行政がゆがむことです。特にジェンダー平等や多様性に関する法整備に影響を与えていないか、各地で制定されている「○○県家庭支援条例」等の形で統一協会の教義がいつのまにか入り込んでいないかなど、十分な検証が必要です。
また、政治家とつながることは現役信者の信仰にお墨付きを与えることになり、脱会を困難にさせます。もちろん、政治家のお墨付きにより新たな信者の勧誘も容易になります。
政治家は、これまでの統一協会との関係を全て明らかにするとともに、今後は統一協会との関係を絶つ必要があります。
宗教法人解散と被害者救済を
今やらなければならないこと
今やらなければならないのは、宗教法人法に基づき統一協会の宗教法人を解散させることです。そのためには、国から裁判所へ解散請求をしてもらうことが必要です。
統一協会は、長年、国により認証された宗教法人として大手を振って違法な活動を続けてきました。解散して宗教法人格を失えば、宗教法人としての様々な特権を失い、間違いなく組織は弱体化し、被害は減ります。
われわれ全国弁連は、20年以上にわたり国に対して解散請求をするように求めてきました。国は、宗教法人法を極めて限定的に解釈しており、「現状では難しい」との回答を続けています。しかし、統一協会のような団体に宗教法人格を与えておくのがおかしいと、多くの国民も実感していることだと思います。
もう一つは、被害者・家族の救済・支援です。過去40年間に統一協会が生じさせた被害は、余りにも甚大かつ多様なもので、われわれの想像をはるかに超えるものです。余りにも長く続いた被害であるため、金銭被害は、すでに法律上の消滅時効の期間を経過したものも多くなっています。
被害は単に金銭被害だけに留まりません。信者は、入信中、統一協会に隷属させられ不毛に時間・労力を消費させられますので、脱会した後、まるで人生の一部を切り取られたような苦しみや喪失感を覚えることになります。脱会してから元の自分を取り戻すまでも長い年月がかかります。
さらに、統一協会は家族との断絶、家族破壊を多数引き起こしています。信者家庭では、子が親から教義を押しつけられ、ネグレクトのような状態で育てられる「宗教2世」の問題が生じています。
このような様々な被害をどう救済し、どう被害者・家族に寄り添っていくかが大きな問題です。統一協会は韓国で生まれたものですが、長年被害を存続させ、被害者・家族を放置してきたのは日本の問題です。余りにも大きすぎるこれまでの被害をどう救っていくか、被害者・家族に対しどのような救済・支援策が考えられるのか、日本社会全体で真剣に考え議論すべきだと思います。
全国革新懇がシンポ
平和・民主・革新の日本をめざす全国の会(全国革新懇)は9月14日、国会内でシンポジウム「民主主義、立憲主義をむしばむ統一協会と政治の癒着を暴く」を開きました。
全国霊感商法対策弁護士連絡会の阿部克臣弁護士のほか、3氏が報告。
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報告する(右2人目から)阿部、前川、柿田、宮本の各氏 |
前川喜平元文部科学事務次官は2015年の名称変更について「政治の意思決定がなければ起きない。政治的圧力があった可能性が高い」と述べました。
ジャーナリストの柿田睦夫氏は、同協会の特異な教義を紹介し、「協会の考える家族や家庭は、男女の婚姻を前提としている。同性婚、選択的夫婦別姓などのジェンダー平等の阻止は協会にとって死活問題」だと指摘。
日本共産党の宮本徹衆院議員は、「反社会的カルト集団に国がお墨付きを与えている事態は一刻も早く解消すべきだ」と主張しました。
(新聞「農民」2022.10.10付)
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