参院選の結果と
これからの政治
(上)
神戸女学院大学
石川康宏名誉教授の講演から
8月8日に開かれた農民連夏のオンライン学習会での石川康宏・神戸女学院大学名誉教授の基調講演(要旨)を3回にわたって紹介します。
「野党は共闘」の声を
さらに強く、大きく
「自民大勝」 と言われるが……
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講演する石川名誉教授
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7月に行われた参議院選挙は「自民大勝」と報道されましたが、実態をみると、前回比で自民は比例で1議席減、自民も公明党も得票率を低下させています。全体として議席は増やしましたが、それは選挙区での野党共闘の不発によるものでした。
参議院全248議席のうち自民119・公明27で計146の過半数を占め、改憲派は自民・公明・日本維新の会・国民民主党・NHK党・参政党で180議席と3分の2を超えました。公示前に比べ、改憲派は自民8増・公明1減・維新6増・国民2減・N党1増・参政1増で13議席増となっています。
改憲反対の4党の議席は、立憲民主党39・日本共産党11・れいわ新選組5・社民党1で計56です。公示前に比べて、立憲6減、共産2減、れいわ3増、社民同数で計5議席減でした。
2019年(前回)比で得票率の変化をみると、プラスは維新・社民だけで、ほかのすべての政党がマイナスでした。
議席を左右した1人区のたたかい
自民の議席増は1人区を含む選挙区(1人区では28勝4敗)でのものでした。逆に、立憲の後退は比例1、選挙区5となっています。16年・19年の参院選で野党は32の1人区すべてで候補者調整をしました(図)が、今回は不十分な調整でも11区、勝利は青森・長野・沖縄のみとなりました。
「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)はこれを次のように総括しています。
「野党共闘の不発が今回の選挙結果に結びついたことは明らかである。立憲野党各党には本格的な共闘への取り組みをまずは国会で一刻も早く再開することを呼びかけたい。特に比例区において立憲野党各党は伸び悩み、日本維新の会や右派小政党に隙を突かれた。これらの課題は立憲野党だけでなく、私たち市民連合も今一度大きな広がりを作り直していくことが不可欠であることを示している」
21年総選挙で野党は前回より前進
もう少し2016年以後の流れをみると、「市民連合」は15年に安全保障関連法成立が強行されたのを機に結成されました。その後、16年の参院選、17年の衆院選、19年の参院選で「市民と野党の共闘」が議席を増やし、21年の各地の知事選や衆参の補選、7月の都議選、8月の横浜市長選でも野党候補が勝ちました。
しかし、10月に行われた21年の総選挙では初めての揺り戻しがあり、公示前に比べて(1)自民・公明は12議席減ったが絶対安定多数を確保、(2)野党共闘は14議席減、(3)維新30議席増、国民3議席増という結果になりました。
それでも前回(2017年)の衆院選に比べると、(1)野党共闘と自公は得票増、(2)議席増は野党共闘のみ(68から110)、(3)補完勢力は後退(61から41)でした。ちょっとややこしいですが、4年間に(1)希望の党が解体し(19年)、(2)立憲による野党「再結集」(前回55議席から公示前110議席へ)が進められていたからです。
揺り戻しの主な要因は、(1)不人気の菅首相を切り捨て、国会審議を拒否して批判を封じながら自民総裁選で言い放題、(2)政権協力合意への攻撃に一部野党が的確に反論できず、(3)反自民のポーズをとった維新が、非自公・非野党共闘の思いを吸収、(4)共通政策が9月8日、政権協力が9月30日、最終的な候補者統一発表が10月13日という野党の合意のゆとりのなさ――などでした。
前回総選挙からの変化をみると
今回の参院選をこの衆院選と比例選挙で比較すると、投票率は48・8%から52・1%に上がったにもかかわらず、得票数が伸びたのは社民、国民、れいわだけで、ほかはマイナスです。
維新も頭打ちで、全国進出に失敗しました。
他方で、立憲が大幅な得票減となっているのは野党共闘を遠ざけたことの結果でしょう。共産は衆院選後の攻撃やロシアのウクライナ侵略をきっかけとした攻撃を跳ね返しきれませんでした。あらためて私たちには「野党は共闘」の声を強めることが求められています。
(つづく)
(新聞「農民」2022.9.5付)
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