「農民」記事データベース20220905-1519-07

韓国で高まるTPP11加盟反対闘争

大統領就任2カ月
すでに農民の民意が爆発した
韓国農政新聞から

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、11カ国の環太平洋連携協定(TPP11=CPTPP)への加盟を強行しようとしています。
 これに対し、韓国の農民・漁民らはTPP加盟を阻止する反対運動に立ち上がっています。7月12日には、ソウル市内で大規模な集会とデモが行われ、農民連の長谷川敏郎会長も連帯のメッセージを寄せました。
 大集会のもようをビア・カンペシーナに加盟する韓国農民会総聯合(KPL)の機関紙「韓国農政新聞」が報道しました。同紙の了解を得て報道の要旨を紹介します。
(写真も同紙提供)


CPTPP推進、農業冷遇一辺倒に
農民の不満は最高潮

 全国の農民が7月12日、政府の農業冷遇を糾弾するためソウルに集結した。大統領就任後、2カ月で5000人規模の農民大会という異例な事件だ。尹錫悦大統領の支持率が30%台になったことが話題になっているが、農村の民意は一層冷たい。

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大集会を報道する韓国農政新聞

 最近、農村は農業資材費、人件費の暴騰で疲弊している。しかし有効な政府政策は見られず、むしろ米価暴落の傍観と肥料代の支援予算の削減、ニンニク輸入推進など農民の民意に反する政策が続いている。

 何より集会の決定的な契機になったのはCPTPPだ。史上空前の水準の農産物の市場開放が文在寅(ムン・ジェイン)政府(前大統領)から始まり尹錫悦政府で急激に進行しているのだ。

全国から農民5000人
ソウル駅で大規模集会開催

 集会は、「国民と連帯する農民の道(ビア・カンペシーナ)」(注・KPL、KWPA=韓国女性農民会=のこと)・全国漁民会総連盟・CPTPP加入阻止汎国民運動本部が共同主催したが、参加者のほとんどが農民であった。江原(カンウォン)から済州(チェジュ)まで津々浦々から集まった農民がソウル駅前の200メートル道路の4つの車線を埋めつくした。

 全国米生産者協会のキム・ミョンギ会長は「米価が45年ぶりに最大の幅で暴落した。変動直接支払制が廃止された状況で迎える暴落は次元が違う。政府の自動市場隔離制の約束は口先だけであり、結局、政府の詐欺行為」だと糾弾した。

 全国リンゴ生産者協会のクォン・ヒョクジョン政策室長は「CPTPP加入で輸入農産物の衛生検疫の壁が崩れれば年間でリンゴが6000億ウォン(約600億円)、梨が2000億ウォン(約200億円)の被害を受けるという研究結果がある。果樹だけでなく、主食である米を含むすべての品目が被害を受ける」と訴えた。

世界的食料危機が現実化
「農民だけの問題ではない」と強調

 日本の農民運動全国連合会・長谷川敏郎会長も映像で連帯のあいさつを伝えた。彼は「食料危機の根本原因は農産物自由貿易を強要する新自由主義であり、その中でもCPTPPは最悪の協定」と訴えた。

 農民らは単純に自分たちの生存権の問題だけではないと切実に訴えた。

 全世界的食料不安が高まる状況で国内農業の衰退は食料安保の崩壊につながるだけでなく、CPTPPを通した検疫条件緩和、GMO(遺伝子組み換え)食品拡大などは直ちに国民の健康を脅かす要因になるからだ。

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集会に参加した5000人余りの農漁民が「CPTPP加入を阻止し、農漁民の生存権を勝ち取ろう」と書かれたプラカードを持ってスローガンを叫んだ

 全国ニンニク生産者協会のキム・チャンス会長は1年発芽することも、腐ることもない中国産「怪物ニンニク」を持って壇上に上がり、政府の不十分な輸入農産物管理が国民の健康に及ぼす悪影響も暗示した。

 集会現場のあちこちでは現政権への失望がより生々しくあふれていた。 慶尚北道の青松(チョンソン)から来たキム・ヘヨルさん(64)は「今までFTA(自由貿易協定)で被害を受けてきたがCPTPPに加入すれば農業は全て滅んでしまう」と話し、「大統領が農業の公約を一つも守らないでいる。農民の生きる権利を保障すると言いながら政策は正反対だ」と批判した。

 農民らは「CPTPP反対」、「農民の生存権保障」のスローガンを叫び、ソウル駅から龍山大統領執務室の前まで行進した。

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ソウル市内をデモ行進する集会参加者

 農民らは龍山大統領執務室前の交差点で執務室に向かって雷のような叫び声を上げ集会を終えた。

 全国農民会総聯合のハ・ウォノ議長は「CPTPP、各種原材料の価格上昇、輸入農産物で国民を食わせていこうとする尹錫悦政府に対するたたかいは今日が始まりだ。政府が引き続きCPTPPを強行し、農民を冷遇するならば、農民団体全てが共に連帯闘争をするであろう」と警告した。


CPTPP加入阻止汎国民大会への
連帯のあいさつ

農民連会長 長谷川敏郎

 食料危機が現実に

 いま、世界はコロナ禍とウクライナ危機で、食料価格が高騰し、「戦後最悪の食料危機」に直面しています。

 日本は、史上最低の食料自給率37%の結果、食品価格は高騰し、「食べたくても食べられない人々」が増え続けています。さらに肥料・飼料・資材価格が高騰する一方で、国産の農畜産物価格は低迷し、農家が経営危機に陥っています。

 大本にある自由貿易

 食料危機の大本は新自由主義による農産物の貿易自由化の押し付けであり、中でもCPTPPは最悪の協定の一つです。

 日本では、CPTPPとともに、日欧EPA(経済連携協定)、日米FTA、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)などの自由貿易協定が同時に進められてきました。

 CPTPPには、これまでのどの自由貿易協定にも含まれていなかった悪質な仕掛けが盛り込まれています。例えば、日本の場合、農産物輸出大国の要求に応じて協定発効7年後にさらなる関税撤廃に向け交渉に応じなければなりません。

 また、遺伝子組み換え(GM)作物の貿易促進条項が含まれ、衛生植物検疫(SPS)の規制、食品添加物、農薬、BSEのルールが大幅に緩和されるなど、食の安全がいっそう脅かされます。

 食料主権に基づくルール

 食料危機を打開し、すべての人が安心・安全な食料を十分に確保するには、世界でも韓国でも、日本でも大半を占める家族経営の農民が安心して生産を続けられる環境を保障し、食料自給率を向上させなければなりません。

 そのためには、CPTPPをはじめとする自由貿易協定のくびきを断ち、食料主権に基づく新たな貿易ルールの確立が求められます。食料主権を守るためにたたかう韓国の農民、市民の皆さまのたたかいを熱烈に支持し、連帯のあいさつとします。

(新聞「農民」2022.9.5付)
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2022年9月

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