検証 断罪
「アベノミクス」農政
(1)
日本農業にとっては「失われた10年」
「TPP断固反対」
大ウソだった
安倍晋三元首相が凶弾に倒れたことに対し、私たちは深い哀悼の意を表明し、暴挙を厳しく糾弾します。
同時に、安倍政治については、冷静な評価が行われるべきです。安倍政治の問題点は過去の問題ではなく、その基本点を継承している岸田政権のもとで、今日の日本政治の問題でもあるだけに、なおさらです。
安倍政治の7年8カ月、これに続く2年間の菅・岸田政治の10年は、環太平洋連携協定(TPP)などの農産物輸入自由化が強行され、米価暴落と官邸主導の「アベノミクス」農政改革が吹き荒れた10年、日本農業にとって「失われた10年」でした。
岸田政権が安倍元首相の死を「政治利用」して「国葬」を強行し、安倍政治を賛美して、暴政を覆い隠そうとしているいま、過去の問題ではなく、今日の問題として、「アベノミクス」農政を検証・断罪します。
真っ先にやったのはTPP参加
|
全国各地に立てられた自民党のポスター
|
自民党が全国の農村に「ウソつかない。TPP断固反対。自民党」というポスターを張りめぐらした2012年12月の総選挙で、自民党は民主党から政権を奪還し、安倍氏は首相に返り咲きました。
ところが、安倍氏が真っ先にやったのは、就任2カ月後の13年2月にオバマ大統領にTPP交渉参加を約束することでした。安倍元首相は「例外を確保した」と強弁しましたが、「ウソつかない」どころか、「TPP断固反対」は大ウソだったことが白日のもとにさらされました。
あまりに明白な公約違反に、せめてもの“つじつま合わせ”として4月には国会決議が行われました。国会決議が求めたのは、「重要5品目」(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)は関税撤廃・削減の対象から「除外する」こと、つまり5品目には一切手をつけないことであり、これが「確保されないと判断した場合は、交渉からの脱退も辞さない」ことでした。
しかし、国会決議も無残に足蹴にされました。15年12月に大筋合意されたTPPは「重要5品目」の3割で関税を撤廃・削減し、それ以外の品目では93%で関税をゼロにする最悪の「自由化」協定となりました。米国が脱退してTPP11になりましたが、本質は変わりません。
偽造・捏造の“アベノマジック”
森友学園、加計学園、桜を見る会をめぐる疑惑に見られるように、偽造や捏(ねつ)造が安倍政治の一大特質ですが、公約違反・国会決議無視のTPP参加に対する批判をかわすために使ったのも同じ手口でした。
TPP交渉参加を決断した13年3月、安倍政権は「政府統一試算」を公表しました。その内容は食料自給率が27%に下がり、農業産出額は32%減、小麦生産は壊滅、豚肉・牛肉は7割減、米生産も3分の1減という悲惨なもので(表の左欄)、「日本を亡食の国にするのか」という批判が相次ぎました。
ところが、TPPが大筋合意した15年12月、政府は第2弾となる「改定試算」を公表しました。それは、農業生産減少額2・7兆円という2年前の試算を100分の6の0・17兆円に捏造したうえで、「影響が出ないように対策を打つから、影響はない」として、主な農畜産物の生産は減らず、自給率も下がらないと強弁するインチキ手品=“アベノマジック”というべきものでした(表の右欄)。
さらに、TPPが動き出せば、国内総生産(GDP)が4・2倍の13・6兆円増になるとも試算していました。
こういう捏造をもとに、安倍元首相は15年秋のJA全国大会で「国益にかなう最善の結果を得ることができた」と言い放ちました。毒を薬と言いくるめる不実きわまりないものでした。
「最善の結果」などではないことは次号で検証します。
(つづく)
休刊のお知らせ
次週号(8月22日付)は休刊にします。
新聞「農民」編集部 |
(新聞「農民」2022.8.15付)
|