記録更新が各地で続々
天候不順が農業生産を直撃
観測記録を塗り替える猛暑や水不足が、日本列島を襲っています。
九州北部、中国、四国、近畿、関東甲信、北陸、東北南部の各地方では、「過去もっとも早い梅雨明け」となり、梅雨の期間も関東甲信と北陸を除くこれらの地域で「統計開始以来、もっとも短い梅雨」となりました。
また雨量は、西日本から関東にかけては例年の2〜7割の「空梅雨」となった一方、これまでは梅雨のなかった北海道では6月としては観測史上最高値を上回る大雨を各地で観測しました。
一転して梅雨明け後の下旬は全国各地で40度を超える記録的な猛暑が続き、全国914観測地点のうち、3分の1を超える338地点で6月の観測史上最高の気温を記録。東京都心では9日連続の猛暑日(最高気温35度以上)となり、猛暑日の連続記録を更新しました。
こうした「観測史上初」尽くしの気象が、日本各地の農業に深刻な影響を与えています。
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水不足でひび割れたままの田んぼ(石岡市) |
茨城県南部
梨葉焼け、畑カラカラ
田水不足で生育が不安
茨城県南部の土浦市、石岡市などでは6月中旬からの降水量が平年の1割以下です。
石岡市の梨農家、上田幸子さん(73)は、「5月末から6月頭の長雨で黒星病が広がり、いまだに被害果の摘果が必要ですが、水分不足で葉焼けが始まっています。このままでは、葉が枯れて果実の成長が遅れてしまいます」と話します。「知り合いは『掘り出したジャガイモを乾燥させようと、2〜3時間畑に置いていたら、あまりの暑さで焼けてブヨブヨになった』と言っていました。本当に異常な暑さです」
常陸野農民センターの鈴木治男副会長も「4月末に田植えをした米は中干しが終わって、出穂を迎え水が必要な時期です。川から水をくみ上げていますが、必要な量に足りません。ほかの農家も『半日や1日おきにしか水が来ない』と話しています。畑も乾燥しており、『朝晩に水をまいたが、ナスが枯れてしまった』『里芋が日枯れした』という話も聞きました」と話します。
「米もこのままでは乳白米や出穂不良、ひどければ枯れてしまいます。台風が恵みの雨になればいいのですが」と雨を心待ちにしていました。
米価暴落、資材高騰、そして水不足
耕作放棄地増加が心配
山口県下関市
「米価下落と、資材高騰に加えて、この水不足。地域では『いよいよ、もう田んぼを作るのをやめようか』という声があふれている。ますます放棄地が増えてしまうのではと、心配だ」――こう話すのは、山口県下関市の稲作農家で市議会議員の江原万寿男さんです。
気象庁の観測データによると、下関市では7月5日までの60日間で例年の38%、20日間では10%の雨量しか降っていません。
中山間地にある江原さんの住む集落では、水田の水は天水とため池に頼っていますが、ため池の水はすでにほとんど干上がり、最も深い所の「底栓」を抜いて、わずかに残った水を集落みんなで大事に分け合って使っている状況です。
7月上旬の台風4号もパラパラと降っただけで、「このままでは7月末まで持たないかもしれない。こんな空梅雨は経験したことがない」と江原さん。
山口県は例年、トビイロウンカの被害が出やすく、一昨年も大発生。下関市でも大きな減収を余儀なくされました。「この辺りはウンカ対策の経費が重く、下関市全体で毎年50ヘクタールもの水田が放棄されている。現場の声を集めて、行政にも働きかけていきたい」と、江原さんは話しています。
(新聞「農民」2022.7.18付)
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