「農民」記事データベース20220704-1511-05

福島第一原発事故訴訟で最高裁
国の賠償責任認めず

原告の願い踏みにじる
肩透かし判決


運動広げ不当判決乗り越えよう

 「原発事故の責任を認め、被災者に謝罪をしてほしい」――。福島県民の切実な願いを踏みにじる判決を最高裁は出しました。

 福島第一原発事故の被災者が国と東京電力の責任を問い、損害賠償を求めてたたかった4件の福島原発訴訟。東京電力の賠償責任に関しては、3月4日に最高裁が上告を棄却。東京電力に原子力損害賠償紛争審査会の中間指針を上回る賠償を認めた高裁判決がすでに確定しています。

 残る国の責任が最高裁で争われており、6月17日に判決が出されました。裁判で、争点となっていたのは「国が大津波による過酷事故を予見できたのか」という点でした。

 原告・弁護団は2002年7月に公表された「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について(長期評価)」で大地震と津波の発生が予測されていたことを指摘し、「長期評価を受けて防潮堤の設置や建屋の水密化対策を東電に義務づけていれば事故は防げた」と主張してきました。

 国は「長期評価の信頼性は低かった」として対策を行わせなかった過去の対応を正当化していましたが、弁護団により主張の矛盾を指摘されていました。

 しかし、最高裁はこの「事故の予見可能性」の判断をせず、「仮に長期評価に基づき防潮堤を設置しても、実際の津波は長期評価で予測されたものより大きく、事故は防げなかった可能性が高い」として「国に賠償責任はない」とする極めて不当な判決を下しました。原告の「事故の責任がどこにあったのかをはっきりさせてほしい」という願いに肩透かしをする判決です。

 判決文は54ページにわたりますが、判決内容はわずか4ページの薄っぺらいものです。30ページ以上にわたって、判決に反対した裁判官の反対意見が記述されているという異様な判決文となっています。

 判決後の報告集会では弁護団の馬奈木厳太郎弁護士は「最高裁は私たちの訴えを真正面から受け止めなかった。企業が誤りを犯し、行政が正さない。司法も止めない。これでは国民を守らない国になってしまう」と最高裁の姿勢を批判。すぐに判決内容の検討を始めることを報告しました。また、馬奈木弁護士は行動提起で「事故を二度と起こさないために、裁判所が逃げられないところまで運動で追い詰めよう。知らない国会議員がいないくらいに運動を広げ、企業の利益よりも命と健康を最優先にする社会にしなければならない」と訴えました。

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勝つまでたたかう決意を込めて「がんばろう!!」


再び事故起きないよう
訴訟第二陣を支えたい

福島市の果樹農家・橋本光子さん(66)

 判決を聞いた時はすごいショックで立ち上がることができず、翌日まで食事がのどを通りませんでした。孫たちも下を向いていました。

 原発事故で私たちの地域のスーパーにも食べるものがなくなり、食料を作る農家として、2度と事故を繰り返してはならないと、集落の人たちに声をかけて一緒にたたかってきました。しかし、二回目の事故がないと、国はわからないのかと思うと悔しいです。

 事故後も国は小学校などに「放射能は安全」「汚染水は安全」という冊子を配るなどしている中でのこの判決で、裁判官も国に縛られているのではないかとすら感じてしまいました。

 国会議員すら、この訴訟のことを知らない人がいることに驚きました。ワイドショーなどのメディアでもっと取り上げてもらえば、もっと運動も広がると思います。

 生業訴訟の第2陣が福島地裁にかかっています。私は今日からもう次のたたかいに向けて動き出しました。隣の畑の人やうちに来た人に、第2陣の原告に加わってほしいとお願いしています。まだ、良い返事をもらってはいませんが、再び原発事故が起きて、食べるものがない事態を起こさないよう、第2陣の訴訟を支えていきます。


国の責任認めず理不尽
原発ゼロまでたたかう

福島市の果樹農家・建設業・松川秀夫さん(66)

 残念で仕方がないというのが、原告団全員の気持ちだと思います。私たちが勝つと汚染水の放出や原発の再稼働など、国が都合よく進めることが難しくなることから、国からの圧力があったのではないかと思ってしまいます。

 私たちが悪いことをしたら罰せられます。しかし、これだけの事故を起こしたにもかかわらず、国に責任はなく、東電の経営陣も罪に問われませんでした。こんな理不尽なことはありません。

 私は建設中の福島原発の視察に行ったことがあります。建屋を作っている様子を見て、「これほど太い鉄筋を使うのか」と驚いた記憶があります。その建物が爆発したのですから、どれだけの爆発力だったのかと恐ろしくなりました。

 もし日本がウクライナのように攻められ、テロの標的になれば真っ先に原発が狙われると思います。原発を占領されれば打つ手はありません。

 私たちは賠償金が欲しいのではありません。再び事故が起きれば、放射能被害は世界に広がります。子どもや孫、世界中の子どもたちが安心して暮らせる世界を作るのが、私たちおとなの責任です。そのために、汚染水の海洋放出阻止や、原発ゼロの実現に向けて、最後までたたかいたいと思います。

(新聞「農民」2022.7.4付)
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2022年7月

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