「農民」記事データベース20220704-1511-01

岸田内閣の緊急物価対策

「国産農産物コスト1割削減」のゴマカシ


実効ある緊急経営支援・生産資材の高騰対策を!

 岸田首相は「いまの物価高騰はエネルギー、食料品の価格高騰が中心だ。そこに政策を集中する。国民が購入する農産物のコストを1割削減するために、肥料、飼料などの支援を検討する」と述べました(日本記者クラブ主催の党首討論会)。

 この言明には二重三重のゴマカシがあります。

 第一に、現在の物価高騰はウクライナ危機とアベノミクスによる異常円安によって引き起こされた輸入農産物やエネルギーの高騰が原因であって、国産農産物の「コスト高」が原因ではありません。不作のたまねぎを除けば、ほとんどの国産農産物は安いままです。

 第二に、肥料や飼料、燃油が暴騰する一方で、米や畜産物は暴落・低迷が続いています(図)。

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 にもかかわらず、農家経営に対する支援は「検討中」と放ったらかす一方で、国産農産物のコストを1割下げれば物価高が解決されるかのように宣伝するのは、賃金低迷の中で物価高に苦しむ消費者と資材高にあえぐ農家を対立させ、「引き合う価格にしてほしい」と切望する農家や中小業者の声を抑え込むことがねらいです。

 第三に、異常な円安の是正と消費税引き下げこそが、いま緊急に求められている対策ですが、岸田首相は両方とも断固として拒否しています。

 忖度(そんたく)と辻つま合わせ

 「生産コスト1割引き下げ」論が飛び出したのは、6月15日の岸田首相会見でした。

 「肥料の高騰に手を打ち、国民が毎日購入する様々な農産物について生産コストを最大1割程度引き下げ、食品の価格上昇を抑制します」

 これに対し「肥料代が農家の経営費に占める割合は7%ではないか」と質問された金子農相は、次のように苦しまぎれに辻つま合わせの答弁をしました。

 「総理のご発言は、今後、『肥料価格急騰への対策』を講ずることにより、肥料の割合が大きい作物の生産コストを最大1割程度引き下げ、価格上昇の要因となるコストの上昇を抑えるという考え方を示したものと受け止めている」

 「コスト1割引き下げ」論が首相官邸から突然飛び出し、あわてふためいて「首相のご意向」を忖度した様子が丸見えの説明です。

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果樹園での肥料の散布風景

 肥料対策――政府に重い腰をあげさせた

 6月21日の「物価・賃金・生活総合対策本部」会合では農水省が肥料、飼料、小麦の高騰対策を提案しました。

 肥料高騰対策については「2008年に講じた肥料高騰対策も参考に、化学肥料使用量の低減等に取り組む農業者に対し、価格上昇による生産コストへの影響を緩和する新しい支援金の仕組みを創設する」と打ち出しました。

 農民連は、肥料の高騰分を農家に直接補てんする緊急対策の実施を繰り返し要求してきましたが、参院選での与党への影響を恐れて政府がやっと重い腰をあげたといってよいでしょう。

 同時に、問題は山積みです。

 (1)最大の問題は、コスト削減を条件に補てんを実施するものになっていることです。これでは、せっかく補てんされても農家の経営改善にはつながりません。

 (2)08年の肥料高騰対策は、化学肥料の使用を2割削減した農家に限って、値上がり分の7割を補てんするもので、予算額500億円でした。

 すでに化学肥料の使用量は全体として19%減っており、これ以上の減肥をためらう農家は少なくありません。当時は手続きの煩雑さも指摘されていました。

 08年対策を踏襲するだけでは全く不十分であり、役に立ちません。

 (3)全農が6月から高度化成肥料を55%値上げし、事態は切迫しています。すでに、北海道などでは、高騰によるコスト増と採算割れに対する不安から、営農に見切りをつけ、農業委員会に「農地を貸したい」という申請が殺到しています。

 岸田首相お得意の「検討」の繰り返しではなく、今すぐに対策の詳細を示すべきです。選挙後にフタを開けてみたら使いづらく、大した支援じゃなかった、補てんがいつ届くかわからないというものになることはゴメンです。

 飼料対策――値上がり前に戻せ

 飼料については「飼料コストを1割抑制」と仰々しくうたっていますが、中身は昨年のものです。補正予算で措置済みの異常補てんの特例を引き下げて1トンあたり8850円補てんするというだけで、新味は何もありません。

 それどころか、全農は「対策本部」会合の翌日に1万1400円引き上げ、飼料価格を1トン約10万円にすると発表。「8850円補てん」は吹っ飛んでしまいます。

 「飼料価格を値上がり前に戻してほしい」――これが畜産農家の切実な要求ですが、これには何ら応えるものにはなっていません。

 小麦――17%アップの上にさらに引き上げ?

 輸入小麦の政府売渡価格については、この4月に17%もの大幅引き上げを行ったことには口をぬぐって「9月まで据え置く」と言い、「10月以降も、輸入価格が突出して急騰している状態であれば必要な抑制措置を講じる」としています。

 しかし、4月の引き上げ以降も国際小麦相場は急騰しています。何%上がれば「抑制措置」をとるのか、基準が全く不明確であり、「突出して急騰」していなければ、10月に再び売渡価格を引き上げないという保証は全くありません。

 パンや麺の高騰対策には全く役立ちません。


アベノミクスによる円安を是正し、
消費税5%引き下げで物価高騰対策を

 岸田首相は「有事の物価高騰だ」と強調し、言外に現政権の責任ではないと言っています。しかし、異常な円安の是正も、消費税引き下げも拒否する岸田政権の対策は「有事」にそぐわない異常な対応です。

 21年の1ドル103円から135円超に進んだ円安で輸入価格は30%以上も上昇しています。円安を是正し、消費税を5%引き下げること――私たちは実効ある緊急の物価・生産資材高騰対策を要求します。

(新聞「農民」2022.7.4付)
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2022年7月

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