温暖化対策は地域発展と両立
このままでは大きな被害
対策・政策の強化が必要
産業技術総合研究所
エネルギー・環境領域主任研究員 歌川 学
〈寄稿〉
食料も、エネルギーも、お金も
地域循環する社会に転換しよう
異常気象が多発、気候が以前と変化し、大雨・洪水、干ばつも極端になってきています。地球温暖化は化石燃料消費による二酸化炭素(CO2)排出などが原因です。温暖化が進行すると異常気象がさらに激化、生態系の破壊や農業への悪影響などがさらに大きくなると予想されています。
異常気象・生態系農業への悪影響などを小さく抑えるには、人間活動とりわけ化石燃料消費によるCO2排出、温室効果ガス排出を大きく削減、いずれゼロにすることが必要です。これについて国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、最新の科学的知見をまとめた報告書を発表したので紹介します。
温暖化で農業などに悪影響
地球温暖化の進行で、産業革命前から1・5度より2度、またはそれ以上と、世界の気温が上昇すればするほど、被害も大きくなります。
台風の規模や回数の増加、熱波や干ばつ、海外では大規模な山火事の増加も懸念されます。水の確保に困る可能性――たとえば積雪が減り、田植えの水の確保に困る、害虫が年に何度も発生する――などの悪影響があります。温暖化は食料生産、食料へのアクセスをより困難にし、食料安全保障を低下させるのです。
悪影響・被害防止のためには、CO2などの排出削減対策が急務です。これと並行し、気温上昇1・5度にとどめてもその悪影響があるため「適応策」も必要です。適応策とは、気温上昇を前提に、その悪影響をやわらげるための各種対策、農業でいえば灌漑(かんがい)、栽培品種の選択、品種改良などです。
悪影響を抑えるには気温上昇を1・5度に
温暖化の悪影響を小さく抑えるためには、産業革命前からの気温上昇を1・5度にとどめることが、国際的な目標・目安になっています。
世界の平均気温はすでに約1・1度上昇しました。今後の大きな排出削減が必要です。気温上昇を1・5度に抑制するには、世界のCO2排出量を2030年までに48%削減(2019年比で)、つまり今から約半分に減らし、2050年頃にはゼロにしなければなりません。日本など先進国は一人当たりのCO2排出量が世界平均の2倍で、より大きな削減が求められます。
しかし30年までに半減するためにできる対策は十分あり、しかも省エネ、再生可能エネルギー(再エネ)対策には対策をした方が得なものがたくさんあります。こうした有利なものを選んで、排出削減を進めていく必要があります。
脱炭素対策の大半は今の技術の普及
脱炭素対策の大半は新しい技術ではなく、今の技術やその改良技術の普及で実現できます。
日本のCO2排出の約6割を占める発電、石油精製、素材4業種(鉄鋼業、化学工業、セメント製造、製紙など)での排出削減が大事です。
日本の排出の約3分の1を占める発電では、排出量のとくに多い石炭火力発電を30年までに大きく減らし、他の火力も減らし、再エネを大きく増やし、最終的には全部再エネにしなければなりません。
省エネは、消費側の効率改善ですすめます。建物の新築時に断熱建築を選び、機器・車の更新時に省エネトップクラスを選び、車はいずれ電気自動車に転換する必要があります。電気も熱も再生可能エネルギーを選ぶようにします。
農業では、温室を石油から再エネの熱に変える、電気エアコンを再エネ電力で使う、農地の上にまばらに太陽光発電を設置し農家が食料生産をしながら電気も売る(ソーラーシェアリング)、なども必要です。
食料は地産地消を進め、食料輸入・長距離輸送の運輸燃料を減らすことも必要です。これは国・地域の食料安全保障強化にもなり、食料購入先を外国から国内・地域に変え、お金の支払い先を国内や地域の農家に変えることにもつながります。
こうした対策をとれば、化石燃料の輸入費や、地域から流出する光熱費を年間20兆円も減らすことができます。
省エネ対策に必要な投資の多くは「もと」がとれ、光熱費などお金の支払先を国内・地域に変え、石油高騰などに振り回されない経済になる、という点が重要です。
後押しする 「政策」 強化が必要
温暖化対策を進めるには、政策が必要です。
国全体の目標強化も議論しなければなりません。自治体でも「2050年排出ゼロ」という目標とともに、「2030年で2013年比60%削減」などの目標や、目標達成の対策を後押しする政策が必要になります。
電力会社や鉄鋼業などの大規模排出源には、削減義務化なども議論されなければなりません。
それ以外では、断熱規制の強化や、機器の省エネ規制強化で、農家や中小企業、家庭が、断熱建築や省エネ機器を普通に(低価格で)買えるようにすることも必要です。
また送電線には再エネ発電所が優先して接続できるようにし、地域の再エネ普及を進めることや、乱開発、とくに大規模な再エネ発電は許可地域と禁止地域を区分けして、地元の再エネのとりくみを優先する、なども重要です。
省エネも再エネも、農家や中小企業や住民が公的で中立の専門家に相談し、適正な技術を、適正なコストで導入できるようにしなければなりません。
食料の地産地消の政策も必要です。適応、つまり水不足への備えや、栽培作物の選択、害虫対策などについて、国や自治体が対策手段を提供し、農家が対策種類やコストなどを専門家に相談できる体制も必要です。
脱炭素は、 将来のまちづくり、 地域づくり
脱炭素は暗いがまんの世界ではなく、異常気象、農業被害などを抑え、光熱費を減らし、お金の流れを国内・地域に変え、地域に雇用を増やして若者の定住の受け皿にし、将来のまちづくりを考えるものです。農家や地域の人々が国や自治体などの意思決定に参加し、議論して行くことが必要です。
(新聞「農民」2022.6.27付)
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