「農民」記事データベース20220425-1502-01

21世紀は食料の高騰と危機の世紀

食料価格指数
史上最高に急騰

FAOが最新データを発表


ウクライナ侵略が急騰に拍車

 世界の食料価格が過去最高のペースで上昇しています。FAO(国連食糧農業機関)は新たに2022年3月の食料価格指数は159・3ポイントで、2月を17・9ポイント上回り、「1990年の統計開始以来、過去最高値を更新する高騰」を記録したと発表しました((1))。

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 * 食料価格指数は2014〜16年平均を100として、変化を指数化したもので、新たな発表は4月8日。

 特徴は2つ。(1)ロシアのウクライナ侵略が急騰に拍車をかけていること、(2)21世紀に入って食料価格が約6〜3倍にはね上がっていること――です。

 ウクライナ危機で供給網に打撃

 食料価格指数は穀物、肉、乳製品、食用油、砂糖の価格動向を示すものですが、これらすべてが上昇しています。特に食用油は2月から3月にかけて46・9ポイント増の248・6、穀物は24・8ポイント増の170・1と、史上最高を更新((2))。1カ月の上昇幅も史上最高です。

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 FAOは、最大の要因としてウクライナ危機が供給網に打撃を与えたことを指摘。ロシア・ウクライナ両国で世界の小麦輸出の30%、トウモロコシ輸出の20%を占め、ヒマワリ油はウクライナ1国で8割近くを占めています。

 しかも、ロシアは国際世論に逆らって侵略軍の撤退を拒否しており、ウクライナでの春の種まきや冬小麦の収穫が危ぶまれています。FAOは、ウクライナの農業生産は20〜30%減と見通していますが、これにとどまる保証はありません。

 加えて気候変動や肥料危機によって、アメリカやブラジルなどの食料生産に黄信号がともっています。

 21世紀に入って3〜6倍に

 もう一つの特徴は、21世紀に入ってからの食料価格高騰はすさまじく、食料品平均で2・9倍、穀物は3・3倍、食用油は5・8倍にはね上がっていることです((3))。

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 20世紀の最後の10年(1990〜2000年)は6〜13%の下落傾向でしたが、08年、11年の食料危機を経て、21世紀は食料の高騰と危機の世紀というべき様相を示しています。

 国連 「戦後最悪の食料危機」 を警告

 国連のグテレス事務総長は次のように警告しています。

 「(ウクライナ)危機により、人類の5分の1を超える17億人もの人たちが貧困や飢餓に追いやられる可能性がある。これは、過去数十年間見られなかった規模だ」「国連は全ての国に対し、買いだめや不当な輸出規制をやめ、備蓄分を飢餓のリスクが最も高い国に提供するよう求める」(毎日新聞、4月14日)

 また、飢餓国への支援を担い、20年にノーベル賞を受賞した「国連食糧計画」のトップは「大惨事の上に大惨事」が重なって「第二次世界大戦以来最悪の食料危機に直面している」と警告しました。

  「長期的で絶対的な食料不足」

 食料危機は、日本政府がタカをくくっているように短期的・一時的な現象ではありません。

 その背景にあるのは、(1)「異常」気象が「正常」気象になってしまった気候危機、(2)コロナ禍による生産・流通と経済の混乱、(3)原油高に伴う穀物・大豆・砂糖を使ったバイオ燃料の急増、(4)中国などの食料需要の想定以上の伸びがあり、(5)これにロシアのウクライナ侵略が強烈に追い打ちをかけたという構図です。

 特に中国の“買いだめ”は異様で、コロナ禍前の19年から21年にかけて、小麦の輸入が2倍の1000万トン、トウモロコシ輸入が3倍の2600万トン、大豆にいたっては日本の300万トンに対し、中国の輸入は1億300万トンに達しています。

 資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏は指摘します。

 「日本は『不測の事態に備える』というが、その不測の事態は短期的な食料調達の中断を想定している。問題はもっと長期的で絶対的な食料不足だ。国内の米を中心にできるだけ増産すべきだ」(日本テレビ、4月8日)

 EUの食料危機対策と日本

 EU(欧州連合)諸国の食料自給率はフランスの125%をはじめ、ドイツ86%など、日本(37%)に比べて格段に高く、域内の食料保障システムも十分に機能しています。

 しかしEUは、ウクライナ危機に対応して3月23日に「欧州食料安全保障危機対応メカニズム」を発動し、農家や消費者に対する支援に乗り出しています。

 (1)休耕地での飼料・食料用穀物の緊急増産

 (2)直接払いの増額、肥料価格上昇などに対する追加の財政支援

 (3)食品の付加価値税(消費税)引き下げ

 (4)「貧しい人々への援助基金」を活用した食料支援

 これに対し日本はどうか――。

 (1)米をつくるなと言うだけでなく、転作で麦、大豆、飼料を作る支援の交付金をカットし、水田つぶしと食料減産・自給率低下に拍車をかける

 (2)肥料・飼料・燃油高騰対策は「適切に検討する」とお茶をにごす

 (3)消費税引き下げは「全然考えていない」と拒絶、食料支援については「沈黙」

 消費者と共同して危機打開を

 コロナ禍の日本で「食べたくても食べられない人々」「欠食児童」が増えています。日本でも栄養不良・飢餓状態が蔓延(まんえん)しているなかでのウクライナ危機で、食料も肥料も飼料も外国頼みにしてきた歴代の自民党農政が破たんし、そのしわ寄せが国民に襲いかかっています。

 国連が戦後最悪の食料危機を警告し、国民が食品の高騰に苦しんでいるいま、岸田政権には危機感も有効な対策もなく、国民や農民に自己責任を押し付けています。

 食料危機の犠牲者は消費者です。政府が今やるべきは国内のあらゆる条件を汲(く)みつくして食料増産に踏み出すこと、そのための対策を総動員することです。

 農のつくあらゆる団体、消費者と共同して地域から政府に政策の転換を迫りましょう。

(新聞「農民」2022.4.25付)
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2022年4月

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