「農民」記事データベース20220418-1501-07

島根県の担い手づくり

島根県農林水産部農業経営課
田中千之課長の講演

 3月26日の青年部第30回総会で行った、島根県農林水産部農業経営課の田中千之課長の講演「島根県の担い手づくり」の内容を、2回に分けて紹介します。


過疎から地域をどう守るか

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講演する田中課長

 島根県は人口70万人を切り、大部分が過疎地域で、農業・農村を守る施策を進めてきました。

 1987年から集落営農を推進。限界集落の作業受託などにも取り組む地域貢献型集落営農の支援も08年から進めています。集落営農間の広域連携も11年から支援しています。

 農業とほかの業種で収入を確保する「半農半X」の支援も10年からスタートしました。企業の農業参入支援も98年から行っています。

 20年から5年間の県農林水産基本計画では新規就農者と中核的担い手、集落営農組織、地域をけん引する経営体、「半農半X」などの多様な担い手の確保・育成を進めています。

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島根県浜田市の山あいに広がる棚田

 新規就農者の確保を推進

 就農相談会では、農業以外の、空き家や保育所・学校等の施設、小売店や、子育て支援策等の生活に関する情報も丁寧に説明。こうした説明がしっかりできる市町村にはU・Iターン者が多い傾向にあります。

 県の農林大学校の機能強化も進め、20年度からは自営就農希望の学生に特化したコースを設置しています。定員を30人から45人に増員し、社会人経験者向けの短期コースも新設しています。また、有機農業科を設置し、ここ2年は定員を超えて学生が来ています。

 自立を希望する雇用就農者に向けて、雇用側の経営体と提携を結び(22年3月現在で28経営体)、独立も支援。

 県は認定新規就農者を毎年60人以上確保することを目標に取り組んでいますが、現状は30人程度です。

集落営農や半農Xなど
多用な担い手を支援

 「半農半X」 で移住希望者支援

 自営就農、雇用就農と合わせて、10年から支援をスタートしています。65歳未満の県外からのU・Iターン者が対象で、農業分野での販売額50万円以上の計画立案と、就農後5年間の定住が条件です。

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半農半Xの支援内容(講演資料から)

 受け入れ市町村にも年間所得200万円程度の「半農半Xモデル」を作成してもらっており、現在、県内19市町村のうち15市町村で策定されています。

 助成内容は就農前の研修期間に月額12万円を1年間、就農後も同額を1年間支給。機械等の整備にも補助率3分の1で支援しています。

 農村での生活が本当に成り立つのかが、移住希望者の大きな関心事だと思います。そこで、県の中山間地域研究センターがオンライン上で「田舎くらし設計」という生活費等のシミュレーションを公開しています。

 中山間地への定住効果高く

 11年間で85人を「半農半X実践者」として認定し、現在79人、家族も含めると136人が定住しており、高い定住効果が出ています。ほとんどが中山間地域への定住で、地域活性化にもつながっています。カップルで移住したケースもありますが、60人が男性で19人が女性です。Iターンが8割と圧倒的で近畿圏や関東圏からが主になります。

 半農半Xの類型では、農業と他の経営体での雇用就農の「半農半農雇用」が多く、酒蔵や除雪勤務といった季節性の仕事に就く人もいます。

 移住先は子育て日本一や有機農業が盛んなど特徴のある市町村に集中しています。

 住民とかかわり「以前より幸せ」

 15年に行った実践者の意識調査では自然環境や住まいについては満足度が高く、商業・娯楽施設や医療・教育施設は、満足度が低い。また、所得については満足できるレベルではなく、農業所得を増やしたいという結果でした。

 意外だったのが、集落・自治会など周囲の住民とのかかわりの部分で、多くの人が「移住前より幸せである」と回答しています。地域の伝統産業である酒造会社の戦力になっていたり、家族とともに移住して草刈りなど地域保全活動が活発化するなど、地域貢献効果も高いと感じています。

 例えば、自分の作ったお米で日本酒を作りたいと兵庫県から邑南町に移住した方は、今では11月から3月まで杜氏として働いています。就農フェアで島根なら夢が実現できると、お試し移住1年から半農半X2年、認定農業者として国の次世代人材投資事業を4年受給。現在は地元の女性と結婚し子どもも生まれています。

(つづく)

(新聞「農民」2022.4.18付)
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2022年4月

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