「農民」記事データベース20220411-1500-02

秋田 能代市
鶴形地区のそば作り

水田活用交付金カットで
ソバ畑は耕作放棄地に

秋田県農民連事務局長 小林秀彦


そばを生かした地域おこしも危機に

 国が水田活用交付金の要件を見直し、「今後5年間、稲作をしなかった水田は、交付金対象からはずす」と発表し、秋田県能代市の農家の間で、大問題となっています。

 能代市鶴形地区では、昔からソバが栽培されてきました。河川から水をくみ上げないと栽培できない高台にも40ヘクタールほどの水田があり、かつては減反とポンプの故障で荒廃していたこの転作田でもソバを捨て作り(種まきしても収穫しない)していました。

 ところが20年ほど前に行政から「転作助成金は収穫しなければもらえない」と指導があり、これを機に、70人の農家で「鶴形地区そば生産組合」を立ち上げました。

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みごとに開花した高台の40ヘクタールのそば畑

そばは地域おこしの要

 現在、ソバ畑は80ヘクタールあり、昨年は56トンの収穫量でした。このうち70ヘクタールが転作で、水田活用交付金は1400万円が農家に支払われています。

 転作にあたっては、ソバの刈り取りに汎用コンバインを3台導入し、乾燥機なども設置し、品質の良い玄ソバを販売できるよう努めてきました。

 今では鶴形地区以外の、なまはげで有名な男鹿市や大館市、藤里町などの生産組合からも、玄ソバの乾燥調整の委託を受けるまでになっています。

 また転作田でも排水を良くするために、毎年のように重機を借りて、暗きょ(地下)・明きょ(地表)排水などをほどこし、ソバに合った土づくりにも励んでいます。

 しかし玄ソバの価格は安く、収益性は低いのが実情です。それでも水田活用交付金があればこそ、農家は意欲を失うことなく、みんなでソバ作りに取り組んできました。

 地域の農家からは、「国が『米余りだ、転作しろ』と言うから協力してきたのに、今になって助成金をなくすとは、国は何を考えているのか」「良いソバをたくさん作るために、排水を良くする作業を毎年のように続けてきた。もう元の水田には戻せない」という声が噴出しています。

 万が一にも水田活用交付金の対象から外れることになれば、ソバ生産は赤字経営となり、借地や受委託契約も解消され、膨大な耕作放棄地になることは避けられません。

女性が活躍するそば加工も危機に

 鶴形地区では、そばの加工、販売にも本格的に取り組んでいこうということで、お母ちゃんたちを中心に、鶴形そば製造加工株式会社を立ち上げました。そばの加工所ではいつもお母ちゃんたちの笑い声が絶えません。

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笑顔が輝くそば加工所の女性たち

 お客さんの「おいしい」という笑顔が自信と励みになり、今ではスーパーや産直、道の駅などに、そばを出荷・販売しています。また学校や介護施設、障害者施設などでのさまざまなイベントに参加したり、そば打ち体験でも指導したりと、女性たちが毎日のように大活躍しています。

 さらにいま、鶴形地区では、手打ちそばだけでなく、そばがゆやソバのむき実、菜種油や、4月には念願だった「そば焼酎」も発売される予定で、特産品づくりに取り組んでいます。また、廃校になった地元の旧鶴形小学校を改修して、ようやくこの5月からはそば食堂も開店する予定です。

 水田活用交付金の見直しで、こうした地域での生産や加工、町づくりの明かりを消すことがあってはなりません。

 耕作放棄地増えれば獣害深刻化

 ちなみに秋田県では近年、クマの被害が多発しており、当地でもクマによるソバの踏み倒し、食害がますます拡大しています。鶴形でも先日、ソバの仮の乾燥をしていたビニールハウスにクマが侵入し、ソバの実を食い散らかすという被害が発生しました。しかもご丁寧にも、クマは隣接するハウスのビニールにも、顔を突っ込んで中を物色するための穴を残していきました。

 水田活用交付金の見直しで耕作放棄地が増えれば、ますます野生動物の活動域が人里に入り込み、獣害が深刻化することが危惧されます。無条件で交付金が継続していくように、全国で運動を広げることが必要です。

(新聞「農民」2022.4.11付)
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2022年4月

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