「農民」記事データベース20220307-1495-02

酪農家
牛乳の生産抑制に直面

国の責任で乳製品の在庫解消を

北海道 厚岸町農民組合
小野寺孝一(酪農)

関連/生産抑制と経費上昇に苦しむ酪農経営


コロナ禍による需要減少が
輸入増と規模拡大政策を直撃

 コロナ禍による需要減少で、昨年12月ころから乳製品の在庫が過剰となり、3月頃にはいよいよ生乳廃棄が現実味を帯びてきました。10数年ぶりに生産抑制が行われ、現場では不安と不満が渦巻いています。

 ここ数年、TPP、日欧EPA、日米貿易協定などの「対策」として、多額の補助金を使って酪農の大規模化を押し付ける「畜産クラスター事業」が推し進められてきました。このため大規模酪農家が次々と誕生し、従業員を雇う企業的な酪農経営も珍しくなくなってきています。

 しかし大規模酪農や企業的酪農では往々にして、エサは値上がりが続く輸入に頼り、牧草の収穫やふん尿処理なども業者に委託したり、搾乳作業や牛の管理に従業員の雇用も増やさなければなりません。そうなると生産費もどんどん増え、1キロあたり100円の乳価でなければ経営が成り立ちません。その一方で、国の自由化政策で乳製品輸入は増え続け、乳製品の在庫増加の大きな要因となっています。

 生産抑制のこの時期こそ一度立ち止まって、国産飼料に立脚した、本来の酪農のあるべき姿を見つめ直すときかもしれません。

 今回の生産抑制が具体的に酪農家に伝わったのは、昨年11月頃でした。いきなり「年末年始の学校給食用の牛乳が消費されない時期に、乳製品に加工しきれない生乳が出るかもしれない。計画乳量をオーバーしている酪農家は、牛を売って出荷乳量を減らしてください」との通達でした。

 乳牛は搾乳を止めると病気になってしまい、急には生産を減らせません。それに私たちは生まれたメス子牛を2年間かけて育て、妊娠、出産させて初めて搾乳できるようになります。その大切な牛を手放すのは、経済的にも、精神的にもたいへんつらい選択です。

 矛盾を現場に押し付けるだけの酪農政策では、問題は解決しないと思います。

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真冬でもパドックで元気に乾草を食べる牛たち(小野寺さん提供)


生産抑制と経費上昇に苦しむ酪農経営

北海道大学准教授 清水池義治

 生乳の生産増加とは裏腹に、コロナ禍で牛乳・乳製品消費の減少で、乳製品在庫が大きく増え、北海道の酪農家が苦しめられています。

 在庫を減らすための価格引き下げで、酪農家が受け取る乳価は1キロあたり2円以上も下がっています。さらに2022年度には、乳製品の在庫対策として生乳生産にブレーキをかける対策(生産抑制)が始まります。返済すべき借金は変わらないので、数億円の借金で規模を大きくした酪農家は、計り知れないダメージを受けています。

 さらに追い打ちをかけているのが、エサや燃料などの記録的な値上がりです。酪農家は乳価の引き上げを求めていますが、乳製品の在庫が増えているため、なかなか難しい状況です。

 多額の税金を使って、生乳の増産を進めてきたのは政府です。増産に協力した酪農経営を見捨てない、国の責任で乳製品在庫解消の緊急対策を行うことが望まれます。

(北海道農民連ニュースから)

(新聞「農民」2022.3.7付)
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2022年3月

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