参議院選挙に向けて
市民と野党の共闘の
発展をめざして
(上)
渡辺治・一橋大学名誉教授に聞く
今年は参議院選挙が行われます。岸田・自民党公明党政権との憲法をめぐるたたかいの展望、市民と野党の共闘の課題などについて、一橋大学名誉教授の渡辺治さんに聞きました。
悪政に立ち向かう連携が力を発揮
改憲の加速化ねらう岸田政権
昨年は10月に総選挙が行われ、9年に及ぶ安倍・菅政治の継続か転換かが争点になりました。総選挙に向け岸田・自民党がねらったのは、安倍・菅政権が追求してきた3つの悪政の継続・強化でした。
第1の悪政は、新型コロナで矛盾が噴き出した新自由主義政治の延命・強化です。大企業に対する法人税を安くするため、安倍政権は、病床削減や保健所統廃合を強行し、その最中にコロナが襲ったため、日本では患者数が少ないときから医療崩壊が起こりました。コロナ失政で安倍・菅政権は相次いで退陣を余儀なくされましたが、岸田政権は新自由主義を手直しして再起動することをねらったのです。
第2の悪政は、憲法9条の破壊と改憲・日米軍事同盟の継続・強化です。
そして第3の悪政は、「官邸主導」と称する強権政治と民主主義破壊です。
岸田政権が特に力を入れているのが、第2の悪政です。岸田首相は、安倍・菅政権の単なる継承ではなく、改憲の加速化をねらっています。
振り返ってみると、安倍政権は2015年の安保法制制定強行、集団的自衛権の行使容認で、アメリカの戦争に加担して自衛隊が海外で武力行使できる体制づくりを進め、「戦争する国」づくりの完成のため明文改憲をねらいました。
しかし、市民と野党の共闘のがんばりが安倍氏の野望を挫折させました。
菅政権は、安倍政権の戦争する国づくりを継承し、さらに危険な道に踏み出しました。その背景には、対テロ戦争から米中軍事対決路線へというトランプ政権下でのアメリカの世界戦略の転換がありました。
バイデン米大統領は米中軍事対決路線を、日本をはじめとした軍事同盟網の拡大によって強化しようとしたため、日米軍事同盟は新段階に入ったのです。菅政権は昨年4月16日、「日米共同声明」で軍事同盟強化をアメリカと約束しました。
こうして、菅政権下で日米軍事同盟強化のための改憲、(1)9条の実質破壊の加速化と(2)安倍氏もできなかった改憲手続法改定が強行されました。
自公政権交代をめざした野党共闘の成立
総選挙は、こうした自公の悪政を転換することをめざし、立憲野党が共闘で立ち向かった初めての選挙でもありました。
安倍政権の悪政に立ち向かうため「市民と野党の共闘」の誕生と強化が進みました。安保法制反対と立憲主義擁護を掲げて共闘が広がり、2019年の参議院選挙では32の一人区で共闘が成立し、10選挙区で当選、改憲勢力3分の2を阻止し、安倍改憲を挫折に追い込んだのです。
共闘の積み重ねの上に21年9月8日に、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の出した「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」に野党4党が合意し、20項目の共通政策を実行する政権の実現をめざすことになりました。
さらに、政権をめざす合意が9月30日に、立憲民主党と日本共産党との間で結ばれ、自公政権を倒し、新しい政治を実現するために候補者一本化の努力が行われました。その結果、選挙公示ギリギリになって289の小選挙区の7割を超える207選挙区で候補者を一本化してたたかう体制が整い、総選挙を迎えたのです。
共闘候補の勝利に貢献
総選挙では、自民党は議席を減らしましたが、絶対安定多数の261を獲得しました。日本維新の会の伸長により改憲勢力は3分の2を維持し、改憲に向けた新たな局面が生まれたのです。
一方、立憲野党は善戦・健闘しましたが、めざした政権交代は実現できませんでした。
比例代表選挙での自公の得票率47・04%に対し立憲4党は32・88%にとどまりました。
共闘勢力が自公政治ノーのうねりを起こせなかった理由の一つは、“自公に代わる共闘政権でこんな政治をやるんだ”という政治構想、選択肢を国民に伝えきれなかったことにあると思います。
政策合意が遅れ、せっかく野党が合意した20の共通政策も国民の前に強力に提示することができませんでした。
しかし一方で、市民と野党の共闘は、自公多数は崩せなかったものの、個々の小選挙区では大きな力を発揮し、共闘候補の勝利と接戦化(比例復活)をもたらしたこともみる必要があります。
一本化した207の選挙区のうち、野党の比例合計得票を野党共闘候補が上回った選挙区が144にのぼり、共闘候補は比例の劣勢を跳ね返し59選挙区で勝利し、多くで接戦に持ち込みました。
これにより、甘利明氏、石原伸晃氏ら自民党重鎮の落選、秋田県などで自民党の議席独占打破などの成果をあげました。
(つづく)
(新聞「農民」2022.2.28付)
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