諫早湾干拓問題
締め切りから今年で25年
豊饒の海はいまだ戻らず
(上)
NPO法人21世紀の水産を考える会 中山眞理子
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有明海では新ノリの出荷が始まっています。18年連続生産量・販売金額ともに日本一を誇る佐賀県ですが、有明海西南部の藤津郡太良町の漁場では今季の秋芽ノリが色落ちのため収穫、入札を断念せざるをえないという過去に例のない深刻な被害に直面しています。潮受け堤防締め切りから今年の4月で25年になる諫早湾干拓事業の影響を振り返り漁業の現状、裁判の動向などを2回にわたって報告します。
甚大な漁業への被害
このままでは廃業しかない
「色落ち」で初摘みできず
佐賀県太良町は、有明海の西南部、長崎県との県境に位置し、町内の有明海漁協大浦支所から諫早湾の北部排水門まで車で20分ほどの距離です。
昨年12月に衆議院第一議員会館において諫早湾干拓問題に関する農水省ヒアリングが行われ、私は市民の立場で参加して太良町など有明海西南部の漁業者の方々の話をうかがいました。
大浦支所所属のノリ養殖業、大鋸武弘さん(51)の発言です。
10月23日に種付けをしたが、その1週間後に発生した赤潮が居座り続け、摘み取りの12月になってもノリは1枚も採れていない。
25年間ノリ養殖をやってきたが、こんなひどいことは初めて。
近年は12月末から1月初めに赤潮が発生して冷凍網の時期に被害を受けてきたが、今季は秋芽の時から赤潮が発生した。もうすぐ冷凍網の時期だが、これでは網を張り込めない。機械の整備代金2百万円の請求書が来ているが払いようがない。
このような海況の悪化は、諫早湾干拓事業の潮受け堤防による排水の影響、潮流が遅くなったことが原因だと思う。
私たちの地区では、借金を返して廃業できればまだ良い方で、このままでは自己破産か夜逃げしかない。有明海特別措置法22条を発動して緊急に支援をしてほしい。
なお、有明海特措法22条は、赤潮等により著しい漁業被害が発生した場合は、損失補填(ほてん)を講ずるよう努めなければならないと定めています。
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長崎県諫早市の潮受け堤防排水門 |
漁船漁業でも
同じ大浦の漁船漁業の平方宣清さん(69)は言います。
私たちの基幹漁業であるタイラギがとれなくなって10年以上。アサリも5、6年前までは稚貝はできていたが、今はそれさえ育たない。夏場の酸素不足でアカガイも育たないからこれを餌にするイイダコなどの魚貝類も育たない。
国は様々な調査、事業をしてきたが今の水質状況ではどんな手当をしても回復する見込みはない。
水質、海況を回復するために開門調査をしてほしい。それでも海が回復しなければ、あきらめざるをえない。
農水省の担当官に向かってまさに断腸の思いを吐露する発言でした。
今年の海況は?
1月31日の佐賀新聞によると、「有明海で養殖されているノリの色落ち被害が、佐賀県西南部地域の漁場で広がっている。栄養塩の不足が続く藤津郡太良町の漁場では、海況が良ければ通常3月まで置く冷凍網を早くも撤去した。秋芽網の不作に続き、冷凍網の収穫もわずか」とのこと。
今年に入り平方さんから、「佐賀県東部は今季も質の良いノリがとれているので西南部の品質が落ちるノリは買い手がつかない。漁船漁業でとれているのは、養殖のカキと価格の安いシバエビだけ。燃油高騰のため遠方への出漁はためらわれるが、他にとれるものがないため、大浦支所の所属船が熊本県沖に23隻ほど出ている」と聞きました。
シバエビの群れは海水温が下がるにつれて有明海を時計回りに移動します。9月頃は佐賀県の太良町に近い海域が中心ですが、1月以降は熊本県の海域になります。冬の漁であるタイラギが漁獲できなくなったため、熊本県沖まで漁にでるようになったのです。
諫早湾近傍ほど漁業被害大きい
佐賀県のノリは有明海東部に比べ、西南部、諫早湾に近い地域ほど漁業被害がひどくなっています。例年は秋芽の摘採が終わって冷凍網に入る時期に赤潮が発生していました。それで冷凍網がダメでも何とか秋芽で食いつないできましたが、今季はほとんど摘採ができない事態です。
有明海特措法22条を発動して被害を受けている漁業者の救済を行うこと、あわせて、有明海の豊かな生態系と漁業を取り戻すために、開門調査を始めることが緊急の課題であると考えます。(次回は裁判の経過を報告します)
(つづく)
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三重県大台町 成田 千恵子 |
(新聞「農民」2022.2.21付)
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