「農民」記事データベース20220103-1487-02

小規模漁業重視の政策
こそが世界の流れ

JCFU全国沿岸漁民連事務局長・
茨城大学客員研究員 二平 章さん
(寄稿)


今年は「国際小規模漁業年」

 世界の90%は小規模・家族漁業者

画像  今年2022年は、国連が定めた「小規模伝統漁業・養殖業に関する国際年(略称‥国際小規模漁業年)」です。「国際小規模漁業年」は、FAO(国連食糧農業機関)総会での承認を経て、2017年の第72回国連総会で、正式に国連の国際年の一つとして宣言されました。

 「国際小規模漁業年」は「規模は小さいが、価値は大きい」をスローガンに掲げて、(1)小規模伝統漁業・養殖業の認知度を高め、理解を深め、その持続可能な発展、特に食料安全保障と栄養促進、貧困撲滅および天然資源の利用への貢献を支援すること、(2)小規模伝統漁業者、バリューチェーンに関わる関係者および政府関係者の間の意思疎通と協力を促進し、漁業の持続可能性を促進するための能力および社会的開発などを目的にしています。

 世界で漁業を営む1億4000万人のうち90%は小規模な家族漁業者であり、その家族漁業が魚介類消費量の60%以上を供給しています(FAO、18年)。その現実と重要性を世界各国が認識し、健全な食料システム構築に向けて、小規模伝統漁業の持続可能な発展を保証するために、国連は各国に支援を呼びかけているのです。

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第2回全国カツオまつりサミット=12月3日、高知県土佐清水市

 持続可能な漁業をめざす国際的な動き

 1972年にスウェーデン・ストックホルムで開催された国連人間環境会議以降、地球環境保全のための指導理念として登場したのが、「サスティナブル・ディベロップメント=永続可能な発展」でした。次世代の人びとのために地球環境を守り、自然資源を絶やすことなく永続的に利用し続けていこうという呼びかけです。

 この理念は、地球サミット(国連環境開発会議、92年)で「リオデジャネイロ宣言」として採択され、この宣言の影響を色濃く受けて漁業分野でも94年に「海の憲法」と呼ばれる「国連海洋法条約」が発効しました。

 95年にはFAOが「責任ある漁業のための行動規範」を採択。環境や次世代の人類にも配慮した水産資源の持続的利用を実現するための行動規範を提示しました。

 SDGsと家族農業・小規模漁業に関する国連の提起

 2007〜08年の世界的な経済危機、食料危機を契機に、新自由主義的政策の流れに抵抗する農民運動や市民運動が活発となり、環境にも社会にもやさしい家族農業を重視する動きが顕在化しました。

 これら農民、市民の運動は国連を動かし、15年には「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、さらにSDGsを実現するために不可欠なのが「家族農業」であるとして、19〜28年を国連「家族農業の10年」とすること、そして、18年には「農民と農村で働く人びとの権利宣言(農民の権利宣言)」が国連で採択されました。

 なお、国連文書にある「家族農業」には「小規模家族漁業」、「農民・農村」には「漁民・漁村」の意味が含まれ、文書中には小規模漁業、漁民の記述があります。この流れの中で、国連は22年を「小規模伝統漁業・養殖業に関する国際年」と定めました。

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茨城県ひたちなか市の那珂湊漁港

 「国際小規模漁業年」にふさわしい取り組みを

 日本の漁業経営体は約8万、その9割以上が小規模沿岸漁業経営体です。93年以降、25年間で沿岸漁業経営体は46%にまで減少しました。

 国境付近の不審船を監視し、沿岸の環境や地域雇用を守り、新鮮な魚介類を国民に届け、魚食文化を支えてきた日本の漁業はいま、危機に直面しているといって過言ではありません。

 自公政権のもとで18年に成立した「改悪漁業法」により、漁業調整委員の漁民選挙権がはく奪され、地元沿岸漁民の優先的な漁業権が奪われています。沿岸漁民による「釣り漁業」などの資源にやさしい漁法まで機械的に数量規制する漁獲管理が行われ、さらに企業漁業優遇の大型船の規制緩和などが進められようとしています。日本の漁業政策は小規模漁業重視の国際的な流れとは真逆な道を進んでいるといってよいでしょう。

 「国際小規模漁業年」についても農水省の取り組みやメディアでの報道もほとんどありません。日本の小規模・家族漁業の発展にむけて、地域漁業を支える沿岸漁民と漁協、地域自治体が一体となり、ぜひとも「国際小規模漁業年」にふさわしい取り組みを行い、世界の潮流と手をたずさえて進んでいく年にしたいと願っています。

(新聞「農民」2022.1.3付)
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2022年1月

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