FFPJオンライン連続講座
国連食料システムサミットと市民社会
(下)
関根佳恵 愛知学院大学准教授の報告
(要旨)から
農水省
「みどりの食料システム戦略」は
サミットの縮図
今回は、国連食料システムサミットの経験を踏まえながら、農水省の「みどりの食料システム戦略」をめぐる状況をみていきます。実は「日本は世界の縮図」ということで、サミットをめぐる議論や状況と「みどり戦略」をめぐる議論や状況は似ていると思います。
CO2ゼロ、有機農業推進をうたうが…
「みどり戦略」は今年5月に策定され、(1)2050年までに農林水産業のCO2を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする、(2)有機農業面積を農地の25%、100万ヘクタールに拡大する、(3)リスク換算で農薬の使用量を半減する、(4)化学肥料を3割削減すること――等が盛り込まれています。
EU(欧州連合)の「農場から食卓までの戦略」に似ていますが、達成年度が日本は20年遅くなっています。
日本は現状で有機農業が農地の0・5%しかないにもかかわらず、25%というのはかなり大きな目標です。また、グリホサートやネオニコチノイド系農薬の基準を緩和してきた経緯があり、これが「みどり戦略」で本当に転換するのか、それともここでうたわれているRNA農薬に置き換えていくならば、それが本当に安心できるのかという課題が残されています。
市民社会が懸念、批判の声をあげた
「みどり戦略」は、策定の前に「多様な主体」との意見交換を行ったとされています。「多様な主体」というのはサミットでも使われた言葉ですが、政府が選んだ農業団体や農業資材メーカー、食品業界、消費者団体などです。
そして、市民社会からは、政府がようやく有機農業を推進してくれると歓迎する声、期待する声もありましたが、実は今年3月の「中間取りまとめ」に対してかなりの反対意見が出ていました。
パブリックコメントを行ったところ、全国から1万7千通以上の意見が届き、その95%以上が、「ゲノム編集技術を推進する」という方向性に対する懸念でした。科学技術、ゲノム編集、RNA農薬、ロボット技術、AI(人工知能)などが偏重されているとか、有機農家がすでに確立している技術への言及がないのはおかしいという意見が相次ぎました。
そして、「生産者や消費者への説明が不十分であり、意見を反映できる仕組みが整理されていないので改善を求める」という意見もありました。FFPJも、「みどり戦略」には、中小規模の家族経営に対する言及がまったくなかったので、それに対する言及、位置づけ等を求めました。
今までの機械化・バイテク推進路線はそのまま
結果としてはゲノム編集に関する記述は、本文では大幅に削減されましたが、参考資料の方には多く登場します。政府としては、これを推進することには変わりはないけれども、一般市民の理解が不十分なので、丁寧に説明して理解を促すという立場です。最終版では中小家族経営にも言及はしていますが、中小家族経営が新しい技術を使えるようにするという言及のされ方です。
さらに最終版の中身をみると、以前から推進されていたスマート農業とバイオテクノロジーをベースとして、脱炭素化に向けた取り組みを加え、表書きを変えているという印象が強くあります。市民社会団体は「古いワインを新しいボトルに入れ替えた」という表現をしています。結局は、これまでの農業近代化路線を根本的に転換する戦略にはなっていないのです。ここで問われているのは「誰のための食料システムの転換なのか」「誰がその農業を担うのか」ということではないかと思います。
(おわり)
(新聞「農民」2021.11.29付)
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