小規模沿岸漁民の「協同の力」で
外房の豊かな海を守ろう
食と漁の地域未来フォーラム
キンメの持続的漁業がつくる浜の未来
千葉・勝浦
鮮やかな朱色に大きな目、こっくりとした煮魚に、お刺身や鍋物などにしてもおいしいキンメダイ。日本では長いこと静岡県伊豆半島での水揚げが有名でしたが、近年では千葉県の漁獲高が日本一になっています。それには漁業者同士で話し合い、産卵期の休業や漁具の仕掛けなど、徹底した自主規制を設け、水産資源を守ってきた長い道のりがありました。
この千葉・外房のキンメ漁で行われている、漁民自治による資源管理を世界に発信し、地魚を活用したまちづくりをともに考えようというフォーラムが10月30日、千葉県勝浦市で開かれました。フォーラムは、JCFU全国沿岸漁民連、勝浦市、国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所の共催で行われました。
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大漁旗が会場を埋めつくしました |
研究者も太鼓判
生態に合った漁業者のとりくみに尊敬の念
漁民の自主的資源管理50年継続
千葉県勝浦沖でとれる「外房つりきんめ鯛」は、上品でうまみのあるあぶらがのっているのが特徴で、千葉ブランド水産物にも認定されています。この漁場では、千葉県沿岸小型漁船漁協(JCFU全国沿岸漁民連に加盟)キンメ部会の207隻が操業しており、ほとんどが1〜3人乗りの小規模・家族経営の漁業者です。
同部会では、1970年代後半から、「効率の良すぎる漁を続けていては、いずれは魚がいなくなってしまう。資源を持続させ、安定したキンメ漁を永続させよう」と、資源管理のためのさまざまな自主的とりくみ(左のイラストを参照)を積み重ねてきました。立て縄漁と呼ばれる釣り漁業でとることや、産卵期の7〜9月を禁漁期間とすること、1日の操業時間を4時間とすること、体長25センチより小さいキンメダイは海に戻すこと、釣り糸は一人1本まで――など、非常に厳しい内容のルールです。
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小規模・沿岸漁業者をイラストで応援する今井和子さん作製の資料から |
漁業者は本来、多く魚をとればとった分、より多くの収入となり、“もっととれるけど、とらない”のはたいへんなことです。それでもこうした厳しい自主規制ができた背景について、キンメ部会長の三上次雄さんはフォーラムで、「多数決はとらず、納得いくまで何度も話し合い、部会の漁師全員で承認して一つ一つルールを決めてきた」と語りました。
TAC押しつけず漁民の管理で
こうした自主的なとりくみの結果、外房でのキンメダイの漁獲量は安定的に推移しています。パネリストとして登壇した千葉県水産総合研究センター主席研究員の尾崎真澄さんは、生息域が広く、長生きする、産卵するまで時間がかかる、などのキンメダイの特徴や生態を紹介。「外房の漁業者はキンメダイの特徴にあった資源管理を行っている。それも何十年も前から漁業者自ら続けてきたことは、尊敬に値する」と、賛辞を送りました。
コーディネーターを務めた茨城大学客員教授の二平章さんは、国が、昨年改定した漁業法に基づいて沿岸漁業に魚種別漁獲量管理(TAC規制)制度を持ち込もうとしていることを紹介し、「多くの小規模漁業者が、多様な漁法、魚種の漁獲を行う沿岸漁業に、機械的にTAC規制を押し付ければ、混乱と不信を招くだけだ」と指摘。「沿岸漁業には、漁民、漁協、水産試験場、行政が一体となった、日本型の漁民自治の資源管理が有効だ。この外房のキンメ漁は、その成功例として全国の模範となるべき漁業ではないだろうか」と述べ、「協同の力で持続可能な漁業を発展させ、地域の小規模な沿岸漁業を守っていこう」と呼びかけました。
FAO日本事務 所長がビデオ講演
フォーラムではこのほか、漁業者の活動をイラストにして応援するイラストレーターの今井和子さん、イベントでキンメ汁を提供するなど、魚食普及活動にとりくむ漁協女性部の渡邊美惠子さんと本庄梅子さん、「なんてったって!伝統食の会」の栗原澄子さんが登壇し、「『外房つりきんめ鯛』の持続的漁業と地域づくり」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
またフォーラム冒頭では、FAO駐日連絡事務所長の日比絵里子さんがビデオ講演し、国連が2022年を小規模伝統漁業年に定めていることを紹介しました。
(新聞「農民」2021.11.22付)
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