「農民」記事データベース20211122-1482-03

FFPJ第7回オンライン連続講座

国連食料システムサミットと市民社会
(上)

関根佳恵 愛知学院大学准教授の報告
(要旨)

 家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)は10月28日、第7回オンライン連続講座を行いました。関根佳恵・FFPJ常務理事(愛知学院大学准教授)が「国連食料システムサミットと市民社会」のテーマで報告。2回に分けて紹介します。


多国籍企業に乗っ取られ市民社会がボイコット

 持続可能を目指すはずが…

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報告する関根佳恵さん
 「国連食料システムサミット」が9月23、24の両日に開かれました。なぜ市民社会はサミットを批判し、組織的にボイコットしたのでしょうか。

 サミットの目的は、各国政府や「多様な主体(科学者、企業、政策責任者、医療福祉関係者、農林漁業者、先住民、若者、消費者、環境活動家等)」が、より健康的で持続可能で公正な食料システムを構築するために、協力して行動することを促すことと、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた食料システムを「よりよく復興する」こととされます。

 サミットは、20年4月から18カ月間にわたって準備・関連イベントが開催され、198カ国から累計10万人が参加し、148カ国で国内イベントを開催。90カ国以上の首脳が国家戦略や果たすべき責任を表明しました。

 日本政府は「みどりの食料システム戦略」を訴えました。EU(欧州連合)は、「農場から食卓までの戦略」を発表し、30年までに有機農業面積25%、農薬半減、化学肥料2割以上減、食品ロス半減等を主張しました。

 企業のためでなく人びとのために

 サミットに対して、市民社会団体は「企業のためではなく、人びとのための食料システムを」求めて抵抗しました。数百の市民社会団体が「間違った方向に進んでいる列車に飛び乗ることはできない」とサミットをボイコットし、同時に別の国際集会を開催しました。

 サミットの趣意書は、食料安全保障の実現のためには精密農業、データ収集、遺伝子工学(ゲノム編集技術等)が重要だと強調したものの、市民社会が長年訴えてきた食料主権、アグロエコロジー、市民社会の役割等への言及はありませんでした。サミット特使にカリバタ氏(元ルワンダ農相)を通常と異なるプロセスで選出したことも批判されています。彼女は、ビル・ゲイツ財団が出資する団体で飢餓撲滅のために近代的技術普及めざすAGRA(アフリカ緑の革命同盟)の代表を務めています。

 市民社会は、サミットが(1)貧困と飢餓の原因をつくってきた多国籍企業(バイオ企業)に乗っ取られた、(2)新自由主義的グローバル化に新たな装いを提供する機会になっている、(3)「人びとのサミット」のように、「人びと」=「私たちの名前」を勝手に名乗ってはならないなど――と批判。企業が支配するグローバルな食料システムを、人権に基づいたアグロエコロジカルな食料システムに変革する必要があると呼びかけました。

 科学者も国連もサミットに異議

 また、多くの科学者たちもサミットをボイコットしました。サミットでは部分的な「科学」が採用され、テクノロジー主導型の食料システムに科学が装備されようとしている――と非難。市民社会団体の呼びかけに300人以上の科学者が署名(6月現在)しました。

 さらに、国連人権理事会も、「人権に基づいた食料システムの改革が必要なのに、サミットでは『人権』が空疎な言葉になってしまった」と指摘し、「コロナ禍とそれに起因する食料危機を解決するための実質的な取り組みを各国政府に対して何も提供しなかった」と批判しています。

 サミットでは、「食料システムの危機を乗り越えるために、根本的な改革が必要」だという合意はされましたが、「どのように改革するのか」「どのような技術を採用するのか」「誰のための改革か」は未解決です。

 多国籍企業が支配する食料システムの問題点を是正するなど「農と食の民主主義」「公正な農と食」を求める運動が今後も必要です。

(つづく)

(新聞「農民」2021.11.22付)
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2021年11月

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