福島原発
処理汚染水の海洋放出は撤回し、
代替案の検討を
《寄稿》
JCFU全国沿岸漁民連絡協議会事務局長
二平 章さん
(日本科学者会議会員)
1.全国漁民・市民の声を無視する自公政権
政府は4月13日、福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理汚染水の海への放出を正式決定しました。
決定の数日前には全漁連や福島・茨城・宮城の各県漁連代表らが、菅総理や梶山経産大臣に面会、「断固反対」の意向を伝えました。福島県ではすでに県議会と43市町村(73%)が海への放出反対や慎重対応を求める意見書を可決。自公政権はこれらの声を無視し、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とする2015年の漁民との約束を完全に反故(ほご)にする決定を行ったのです。
福島の原発事故で、日本の農林水産業は、価格の下落、販路の喪失、外国の輸入規制など大きな打撃を受けました。その影響は今も続いています。とくに福島県漁業はこの10年間、厳格な魚の放射能検査と試験操業を余儀なくされ、漁業生産量は震災前の2割までしか復活していません。
政府の放出決定は、今年4月からの本格操業再開に向け準備をしてきた福島県漁民に冷や水を浴びせ、その心を踏みにじるものでした。
2.国連人権専門家も海洋放出反対勧告
政府は「安全・安心」を強調しますが、トリチウムは放射性物質であり、人体への悪影響を指摘する報告も数多くあります。汚染水の海洋放出は30年以上続きます。陸上の汚染水タンクにはトリチウム以外の放射性物質も含まれます。国は「他の放射性物質は完全に取り除く」と言いますが、これまでの約束事からみて信用できません。
「海洋放出で海産物が汚染する」「魚が売れない」と心配する漁民や市民の声は当然です。3月11日、国連の人権専門家6人も日本政府に対して「汚染水がもたらす危険性やその処理の影響の説明が不透明であることや、関連する意思決定プロセスに市民が参加していないことが、原発事故の被害を受けた人々の不安感をあおっている。現在提案中の処理方法に関する協議は、地域社会や市民団体の有意義な参加に欠けている」とし、「汚染水は、環境と人権に大きな危険を及ぼすものであり、汚染水を太平洋に放出するという決定はいかなるものであっても容認できる解決策ではない」と勧告しました。
3.漁民が願うのはきれいな海。補償ではない
全国的に広がる海洋放出反対の声に、政府は8月24日の関係閣僚会議で、「風評被害対策として基金を創設して値下がりした魚を買い取る」と発表。本来、漁業者の損失は東電が賠償するのが基本ですが、今回の買い取りは税金で対応する方針です。
また東電は25日、海底に直径2・5メートルのトンネルを堀り、処理水を原発の沖合1キロに放出する計画を公表しました。漁業権には、漁業権の侵害者に対して侵害行為をやめるよう請求できる妨害排除請求権が含まれます。東電の1キロ先放出案はこの漁業権の及ぶ海域の外に放出することで、漁民からの差し止め訴訟への対応策としようするものです。
1キロ沖への放出であっても海の汚染には変わりがありません。漁民が願うのは補償金ではなく、安心して操業できるきれいな海です。
4.海洋放出以外の代替え案の検討を
処理汚染水の処分には、海洋放出以外の良い方法もあります。(1)トリチウムを濃縮分離して保管する方法、(2)大型の石油備蓄タンク方式で長期に保管する方法、(3)セメントで固めるモルタル固化処分の方法です。
その他に今、私たちが注目しているのが、地下1000メートル以上の地層へ、薄めた汚染水を注入する「大深度地中貯留」法です。この技術は石油関係者の間では既存の技術で、CO2での貯留実績もあり、千年以上閉じ込める設計で漏えいの心配もありません。5年以内で地上タンクを空にでき、コストも比較的安価です(詳細はJCFUのホームページhttps://jcfu.jimdofree.com)。
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JCFU通信「漁師のつぶやき」から |
私たちJCFUは、これらの代替案を政府が検討し、海への放出をやめるよう求める要請書を、9月15日に菅総理はじめ経済産業・農林水産・環境大臣へ提出しました。JCFUでは今後、IAEA(国際原子力機関)をはじめ宮城・福島・茨城・千葉の県知事、全漁協組合長、沿海市町首長に対しても要請書を提出する予定です。
「2023年から海洋放出する」自公政権の方針を撤回させ、全国漁民の要望を実現するためにも、衆議院選挙では、ぜひ市民と野党の共同候補の大躍進で、政権交代を実現してもらいたいと期待しています。
(新聞「農民」2021.9.27付)
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