「農民」記事データベース20210927-1474-13

奇跡的に大切な命、戦争でなくさない

次世代に平和をバトンタッチしたい


世界大会でのヒバクシャメッセージ

ともに平和を作る活動を

長崎原爆被災者協議会評議員 田中安次郎さん

 原水爆禁止世界大会にお集まりのみなさま、ようこそ長崎へ。田中安次郎と申します。今日こうしてみなさまの前にてお話しできることを光栄に思います。ありがとうございます。

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訴える田中さん

 「たった一つの命だから」という言葉がございます。この命は父親、母親よりいただいた大切な命です。そのまた父親、母親、10代さかのぼりますと千人、20代さかのぼると1万人を超えるといいます。これらの方々の命を引き継いで今ここにいる、生きている私、みなさん方、奇跡です。こんな大切な命を、戦争なんかでなくすようなことがないように。

 日本は今から76年前まで戦争をやっていました。そして、あの忌まわしい原子爆弾。広島で14万人、長崎で7万4千人、何にも戦争とは関係のない一般の方々が、無差別に犠牲になり、今でも原子爆弾の被害から辛うじて生き延びた12万7千人の被爆者が、各自何らかの障害を抱えながら、苦しい思いをしながら、日々を懸命に生きているのが現況です。

 私は被爆当時3歳でした。爆心地より3・4キロ離れた長崎市の東部、新中川町の路上で原子爆弾の光と爆風をうけました。

 その日、私は祖母(当時56歳)と妹(0歳)とともに近所の友だちと自宅より10メートル離れた路上で遊んでいました。突然、カメラのフラッシュを何万個も放ったかのような青白い光を浴び、びっくりしてすぐ前の家に飛び込んだとたん、ものすごい風が右手の方からワーッとおそってきました。しばらくして外に出てみると薄暗い空にオレンジ色の太陽がぽっかり浮かんでいたのを覚えています。音がしなくて静寂、不気味でした。

 幸いにも私と一緒にいた祖母、妹もケガなどなく、自宅へ急ぎました。自宅にいた母(36歳)は、背中に無数の小さなガラスの破片が刺さっていたといいます。当時の悲惨な状況を私は覚えていません。

 母は24年前の1997年に89歳で、祖母は47年前の74年に85歳で、ともに腎臓病に苦しみながら亡くなっていきました。一緒にいた妹は4年前の2月、72歳で3年間の入院生活でしたが、これも腎臓不全で残念ながら亡くなりました。

 私は原子爆弾の爆風のためか、右の耳が聞こえにくく病弱で、風邪を引きやすく皮フも弱く、夏はかさぶたができて汚い身体となり、中学生、高校生の時は友だちからいじめにあい、仲間外れの差別を受け悔しい思いをしてきました。

 生活も苦しく、その日食べるのにも事欠く日々を送りましたが、多くの方々に助けていただき、今こうして生活できることに感謝しています。

 被爆者は人間らしく生きることも、人間らしく死ぬこともできなかったのです。こんな苦しみを今の若い方々が二度と受けることがないよう、核をしっかり勉強し、今を見つめ、未来にどう生きるか、勉強しようではないですか。

 過去を学ばぬ者は未来語れない

 「過去を勉強しないものは未来を語る資格はない」と言います。現在私は、修学旅行の生徒さんに戦争の愚かさ、原子爆弾の恐ろしさをお話しさせていただいております。瞳を輝かせ、熱心にメモを取りながら話を聞いてくれるお友だちが私の頼りです。そんな多くのお友だちに平和のバトンタッチをしたいです。

 被爆者は20年3月末で12万7千人。その平均年齢は83・94歳です。昨年は9千人の被爆者が亡くなりました。あと数年もすると被爆者はいなくなります。その時、私たちの話を聞いてくれた若い人が、平和の使者となってくれて話をしてくれることが願いです。次の世代を背負う若者に平和を託したく、日々活動をさせてもらっています。

 被爆国の政府が条約に背向ける

 さて、今年1月22日、核兵器禁止条約が発効しました。私たち被爆者にとっては夢のような条約です。核兵器のない世界に一歩近づいたと思います。しかし、世界でただ一つの被爆国日本の政府はこの条約に背を向けています。おかしいのではないでしょうか。私たち被爆者は唯一の戦争被爆国として、政府に署名、批准を求めてこれからも活動していきたいと思います。

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まだ1万発以上残る核兵器

 たった一つの命だから、今を大切に、今日を大切に、人にやさしく自分に優しく。「Blessed are the peacemakers(平和を作るものは幸いなり)」という言葉があります。この言葉を糧に、あなたとともに平和を作る活動をしようではありませんか。平和がありますように。

(新聞「農民」2021.9.27付)
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2021年9月

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