「農民」記事データベース20210906-1471-08

北海道

ヒグマの乳牛襲撃が続発中

今年に入って9件、22頭が死傷


厚岸町農民組合執行委員長
小野寺孝一さん

わが家の牛も被害に
夜間の放牧を中止

現地リポート

 北海道東部、釧路管内では、今年に入って放牧中の乳牛がヒグマに襲われる被害が続出しています。

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 私の住む厚岸(あっけし)町でも7月16日に、ヒグマによる乳牛被害が発生。町営牧場の敷地内で、牛3頭が腹を引き裂かれた状態で死んでいるのが発見されました。

 そしてなんと、その1週間後の7月23日の朝、わが家の牧場でも被害が発生。わが家はマイペース酪農をしているため、乳牛を昼夜、放牧しているのですが、その日の朝もいつもと同じように搾乳をしようと牛舎に牛を入れていたところ、1頭いないことに気づきました。放牧地を探していたら、腹が引き裂かれ、内臓がとびだし、背中にも大きな食べられた跡があり、腫れ上がった状態で死んでいました。

 その後は、農協、役場、警察、総合振興局、町営牧場長、猟友会などの関係者との対応に追われ、マスコミ各社も取材に訪れ、大変な一日となりました。

 ヒグマによる乳牛被害はそのあとも続き、隣接する標茶(しべちゃ)町と合わせて現在までに合計で9件、22頭が死傷する事態になっています。現場に残った体毛などのDNA鑑定から、襲っているのは同一の雄のヒグマとみられています。

クマ被害は地域の酪農全体を危機に

 わが家は、昼夜放牧で30年間営農してきましたが、ヒグマの被害にあったのは初めてです。

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朝の搾取を終えて、放牧地へ向かって歩く牛の列(小野寺さん提供)

 今年は猛暑で、ここ釧根地方でも日中は気温が30度を超える日が数日続きます。牛は放牧地に行かず、日光やアブを避けて木陰などの比較的涼しい所で過ごし、夜間に放牧草を食べます。したがって夜間放牧ができないということは、経済的にも精神的にも大きな不安となっています。

 この被害以降、夜間放牧は中止しました。朝、夕方、夜と1日3回、放牧地を見回り、ロケット花火を打ち上げ、3頭の牛にクマ鈴をつけて、二度と被害が起きないよう願っています。


厚岸町農民組合
町に要望書

広域体制を構築し専門家交え対策急げ

 こうした事態に、厚岸町農民組合は、8月18日に厚岸町長に要望書を提出しました。

 今回のヒグマ被害は放牧している酪農家だけの問題ではありません。厚岸町では酪農は基幹産業であり、最初に3頭が襲われた町営牧場にも町内のほとんどの酪農家が、育成牛を預託(=搾乳できるまで育てる間、若牛を預けること)しています。また、放牧を中止すると、今度は放牧されていない牛舎の中の牛が狙われることや、人間への被害も考えられます。

 要望書では、「ぜひとも襲っている雄のヒグマの早期駆除、市町村の枠を超えた広域体制の構築、専門家や研究機関の情報発信を」と、求めました。

(新聞「農民」2021.9.6付)
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2021年9月

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