「農民」記事データベース20210802-1467-09

印鑰(いんやく)智哉さんと考える

アグロエコロジーと
食と農の現在・未来
(8)

農業や社会を根本から問い直し
「イエス」の提案を積み重ねよう


農家、環境、健康…領域超える問題を
アグロエコロジーが結びつけ道を開く

 これまでアグロエコロジーが、外から押しつけられるものではなく、伝統的に農民が持つ知恵や経験に根ざし、それをさらに生かす科学であり、農業実践であり、社会運動であることを見てきました。だからこそ世界的に急速に拡がりつつあります。

 そして、この運動が進むことが、食料の安定的確保だけでなく、気候変動を含めた環境の回復、そして人びとの健康や尊厳を回復することにもつながることが理解されるにつれ、農業を超え、環境運動、医療者の運動、反貧困の運動などともつながる社会運動の大きな軸へとなっていきます。

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 ノーの政策にはイエスの提案を

 今の日本政府のように次から次へと問題ある政策が打ち出されると、私たちはそれを止めることに尽力せざるをえません。もちろん、それは不可欠なことです。

 しかし、それだけに追われても、たとえば種子法廃止や種苗法改正を止められたとしても、事態は良くなるわけではありません。いくら政府に「ノー」を積み重ねても、それがそのまま私たちにとっての「イエス」にはならないのです。

 法案が撤回されても、化学肥料や農薬はどんどん使われ、土壌微生物の力を奪い、土は流され、気候変動はさらに激化し、農薬・化学肥料の被害は拡がり、耐性菌・ウイルスはますます増えていくでしょう。市場はさらに独占が進むでしょう。

 私たちはどうしていかなければならないでしょうか?

 根本から問い直すことだと思います。土壌微生物を生かすことから始め、地域循環する、性的差別もない、みんなが尊厳を持って働くことができる社会にしていくためには、無数の「イエス」の提案を積み重ねることだと思います。でも、そのためにはたたかうことが必要になります。今の社会の仕組みでは1つの「イエス」を通すことすらも難しい現状があるからです。

 個々の問題を一緒に解いていく

 その解決には個々の問題を別々に切り離すのではなく、さまざまな問題をいっしょに解いていく必要があります。今の社会が抱えている問題はすべて相似形をなしています。原発の問題も、遺伝子組み換えの問題も、水道の問題も、です。根本から「イエス」と言える社会を作ることを合言葉に、お互いの動きをつなげていくことができれば、大きな力を生み出すことができるはずです。仲間は無数にいます。

 アグロエコロジーは農家の生存と環境の保護、人びとの健康を守ることなど、領域を超える問題を1つに結びつけます。それはわたしたちが求める「イエス」と言える社会に向けた道を開くはずです。

(筆者の都合により、しばらく休載します)

(新聞「農民」2021.8.2付)
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2021年8月

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