「農民」記事データベース20210802-1467-06

今なぜ注目されているのか

有機学校給食

日本有機農業学会が公開シンポ開く


公共調達が持続可能な社会移行のテコ
子どものアレルギーや発達障害で注目
学校給食を通じた有機米の産地づくり

 日本有機農業学会は6月27日、公開シンポジウム「今なぜ、有機学校給食なのか?―国内外の事例から考える―」をオンラインで開きました。

 開会あいさつを秋田県立大学の谷口吉光教授が行い、「学校給食に有機米や有機野菜を使う有機学校給食に対する関心が高まっている。その背景には、子どものアレルギーや発達障害、食材の安全性、保護者の経済的困窮など現在の学校給食が抱える多くの問題が指摘されている。有機学校給食の実現に向けた議論を盛り上げたい」とシンポの目的を述べました。

 EUなど世界の取り組み紹介

 愛知学院大学の関根佳恵准教授が「有機給食と公共調達をめぐる世界の潮流――EUを中心として」と題して報告。貧困や栄養不良など農と食をめぐる危機が訪れているもとで、学校給食などの公共調達制度が、持続可能な社会に移行する政策的なテコになると指摘しました。さらに公共調達には、工業化された農と食のシステムからの脱却の役割があると述べました。

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各国の公共調達の特徴(関根さんの報告資料から)

 関根さんは、ブラジル、アメリカ、韓国、フランス(EU)の有機学校給食の取り組みを紹介し、共通した次の特徴をあげました。

 (1)地元産の有機やアグロエコロジー(生態系に配慮した農業)、小規模・家族経営の農家から食材を調達していること、(2)調理は自校式で無償化または所得に応じた傾斜配分、(3)食育菜園や食農教育をあわせて行うと効果的、(4)子ども、保護者、農家、給食事業者、市民、行政などの関係者が参加していること。

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生徒たちと一緒に給食を食べる調理師(フランス、関根さん報告パワーポイントから)

 全国の有機給食の取り組み報告

 次に、全国有機農業推進協議会の吉野隆子理事が「全国の有機学校給食の取り組み」について報告。全国でアンケート調査を実施し、途中集計として20自治体から回答が寄せられ、そのうち「給食の有機化を進めている」と答えたのは3自治体のみだったことを述べました。

 「有機化を導入してよかったこと」として、「地場産で安心」「旬の野菜なのでおいしい」「地産地消で地元に還元できる」「栄養士が生徒に農家を紹介するので身近に感じてもらえたのか残食が減った」などの回答を紹介しました。課題としては、食材の確保と食材費の高騰の問題が出されました。

 100%地元産の特別栽培米

 2つの自治体から実践報告があり、愛媛県今治市の取り組みをNPO法人愛媛県有機農業研究会の安井孝理事長が発言。今治市では、地元産野菜を優先的に使用し、米は100%地元産特別栽培米であること、21の調理場で21通りのメニューができるなどのメリットを強調しました。

 市として、有機農業の推進に力を入れ、農家・市民を対象に実践講座や技術指導などを実施。市長をはじめ、市の農業・学校給食担当職員、栄養士、教員、PTAなどで推進チームをつくるほか、JAや生産者グループなどでも食材生産チームをつくり、それぞれが活動しています。

 安井さんは、なぜ学校給食に力を入れるのかについて、「子どもたちがおとなになったとき、買い支え、食べ支える消費者になってほしい」「給食の献立が広がることで、市民に健康的な食生活を営んでほしい」などの願いが込められていることを語りました。

 食の安全考えるきっかけに

 千葉県いすみ市からは、市農林課農政班の鮫田晋主査が報告。有機農業者ゼロから始まり、民間稲作研究所や自然農法国際研究センターなどの力を借りて、学校給食を通じた有機米の産地づくりをしてきた経緯を述べました。

 さらに自治体が有機農産物を給食に使用することで地産地消を進め、食育の振興や食の安全を考えるきっかけになり、その結果、残食の減少、市の認知度の向上、農産物のブランド化、農業所得の向上、新規就農希望者の増加などにつながったことを紹介しました。

 シンポの最後に、有機学校給食の実施は暮らしやすい地域をつくる親鍵になる可能性があり、自分たちの地域にあった独自のスタイルを考えていくことが大切だとまとめました。

(新聞「農民」2021.8.2付)
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2021年8月

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