豚熱(旧称豚コレラ)ワクチン
群馬県が新制度スタート
薬代を県が上乗せ補助
生産者の負担がゼロに
リポート
群馬農民連 副会長
群馬県養豚協会 副会長
上原 正さん
群馬県の6月議会で、豚熱の予防的ワクチン料に関する県条例の改正案が可決されました。これまで1頭当たり340円だった生産者負担が、6月28日の接種分から、場合によっては10円で済むという画期的なものです。
群馬県の養豚協会では、豚熱が発生して以来、豚熱ワクチンの接種を認めるよう県や国に何度も要請を行い、ワクチン接種が認可されてからは接種料金の引き下げや料金の内訳開示を要請してきました。ようやくその成果が実りました。
2018年9月、国内で28年ぶりに発生した豚熱は大きな被害をもたらしています。これまでに13県で68例、約24万2000頭以上の豚が殺処分となり、2010年に宮崎県で多大な被害をもたらした口蹄疫の約22万8000頭を上回りました。
群馬県でも今年4月2日に県内で2例目となる豚熱が前橋市で発生し、約1万頭が殺処分されました。その後も三重県津市で約1万頭、栃木県那須塩原市で2農場約4万頭の他、山梨県、神奈川県でも豚の殺処分が続いています。このように最近では、ワクチン接種している大型の養豚場で離乳後のワクチン未接種の空白期間に豚熱が発生しているのが特徴です。
接種体制強化で子豚の
接種適期を逃さない
ワクチン接種の打ち手の
確保も大きく前進
豚熱
農水省は今年1月に豚熱ワクチン接種の指針を変更しました。これまでにも都道府県職員の獣医師のみしかできなかった接種を、民間の獣医師も臨時の家畜防疫員として認定することで、ワクチン接種できる獣医師を増やしてきましたが、さらにこの指針改定で、一定要件を満たした民間の獣医師を「知事認定獣医師」として認定することにしました。
しかしながらこの農水省の指針改定では、接種料金への助成は増額されませんでした。それまで群馬県では1頭当たりの金額は340円で、養豚農家の負担は多額なものとなっていました。
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上原さんが会長を務める「下仁田ミート」の離乳舎の子豚たち |
県財政措置して生産者負担軽減
そこで群馬県では、「知事認定獣医師」制度の発足に伴って財政措置も行い、全国に先駆けて新たな豚熱ワクチンの接種制度を立ち上げました。これによって、従来どおり家畜防疫員が接種する場合でも、新たに国が設けた制度の下で管理獣医師等が知事認定を受けて接種する場合でも、ワクチン薬剤部分については国と県が半額ずつ補助し、生産者負担がゼロになります。
知事認定獣医師が接種する場合は、生産者は県にワクチン配布の手数料として1頭当たり10円のみを支払い、接種技術料や交通費等は認定獣医師との契約で自由に決められることになりました。仮に認定獣医師に接種技術料などを100円支払っても110円で済み、これまでの3分の1の金額で済みます。さらに農場に獣医師の資格のある人がいれば、たった10円でワクチン接種が可能となりました。
知事認定獣医師を選定できない農家は、従来どおり家畜防疫員が接種しますが、農家負担は1頭当たり50円引き下げられ、290円になります。
また、知事認定獣医師制度により現在、2週間に1回のワクチン接種が1週間に1回、自社に獣医師がいれば毎日の接種も可能となり、その農場の豚の免疫の付き具合に見合った適切な時期に、ワクチン接種ができるようになりました。
機械的な全頭殺処分は見直しを
しかし、もう一つ大きな課題があります。それは豚熱が万が一農場に入った場合、ワクチン接種がしてある豚も含めて全頭が殺処分、埋却されてしまうことです。
自民党は5月、合同会議を開催し、発生やまん延防止に向けた政府への提言をまとめましたが、そこでも家畜の所有者に対し、豚熱発生時などに備えて事前に、埋却地の確保や、焼却施設との事前協議の締結、周辺の地域住民からの事前合意形成など求めています。
しかし、埋却用地の確保や周辺住民の事前合意は困難です。また、豚熱ではない通常死亡豚は業者による焼却処分しか認められておらず、埋却処分はできません。今どき埋却処分する時代ではなく、地方公共団体によるレンダリング(化製処理)場を活用した焼却(臭いの発生する問題があるが)を進めるべきです。
輸入検疫徹底し国内侵入許すな
政府によるグローバル化、自由貿易化の中で、これまで日本にはなかった家畜の病気が次々と日本に持ち込まれています。家畜疾病の発生を農家の責任に押し付けるのではなく、空港や海港での徹底した輸入検疫が必要です。病気の発生は国内に侵入を許した国の責任で、決して農家の責任ではありません。これからも豚熱や様々な疾病から養豚、畜産を守る取り組みを進めて行きたいと思います。
(新聞「農民」2021.7.19付)
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