印鑰(いんやく)智哉さんと考える
アグロエコロジーと
食と農の現在・未来
(6)
アグロエコロジーは
常に食糧主権と一緒に考える
農民の生き方を問い直し
社会の発展に大きく寄与
世界でアグロエコロジー運動がいかに広がってきたかを前回見てきました。
アグロエコロジーというとカタカナですし、何か外来の思想・実践を持ち込むような印象を持たれるかもしれません。でもそれは真逆なのです。よその方法を押しつけるのではなく、自分たちの中にある知恵や経験を生かすこと、自分たちが持っている潜在力を引き出す方法論こそが、アグロエコロジーなのです。だからこそ、世界で急速に広まったと言えると思います。
小農の実践を乗っ取る大企業
2010年の国連総会人権理事会で、食への権利特別報告者のオリビエ・デシューター氏が、「アグロエコロジーこそが解決策だ」と演説して以来、国連でもアグロエコロジーの支持が高まり、13年には国際的農民組織ビア・カンペシーナと、国連食糧農業機関(FAO)の提携が発表され、国際政治の舞台にアグロエコロジーが一気に登場します。
急速にブームとなったものの、マクドナルドのような企業までもが「アグロエコロジー」という言葉を使い始めてしまいます。小農の生きる権利と密接に結びついた実践を企業が乗っ取ろうとするものです。こうした動きの中で、必ず食料主権とセットでアグロエコロジーを考える重要性が理解されるようになりました。
食料主権とは、ビア・カンペシーナは、「健康な、そして文化的にふさわしい食料への権利であり、その食料はエコロジー的に健全で、維持可能な方法で作られたものである必要がある。そして自分たちの食料と農業のシステムを決定する権利である」と定義しています。つまり食の決定権と言えると思います。
女性の権利確立も大きな課題に
食料主権をいっしょに捉えることで、アグロエコロジーとは農民がどう生きるか、という主体のあり方を問うものとなっていきます。それは同時に農村内の人間関係、特に女性やLGBT(性的少数者を表す総称の一つ)など、ジェンダーに関わる問題も大きな課題として捉えられるものとなってゆきます。
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「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」という横断幕を掲げるブラジルのアグロエコロジーの全国ネットワーク(ANA)の女性たち |
アグロエコロジー運動が世界各地の農村で進展することによって、女性差別がどれほど農業や社会の発展を阻害してきたのか、より多くの人が理解するようになりました。アグロエコロジー的な実践、たとえば種採りなどにおいて女性の力が発揮され、村の人びとの人間関係も変わっていきます。アグロエコロジーが進んだところでは女性の権利がより確立しているという研究も発表されています。
アグロエコロジーは社会の発展に大きく寄与することがわかっていただけると思います。
(新聞「農民」2021.7.5付)
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