印鑰(いんやく)智哉さんと考える
アグロエコロジーと
食と農の現在・未来
(5)
アグロエコロジーが
貧しい人々を慢性疾患から救う存在に
アグロエコロジー学科 在来種バンク…
国の政策として支援策が本格展開
前回、ブラジルのMST(土地なし農村労働者運動)が化学肥料を使った工業型農業とアグロエコロジーによる農業の間を10数年、揺れ動いた後、後者が小農の生存のための道であるとして、その推進に舵を切った経緯を見ました。
GM食品が拡大
糖尿病が問題に
その転換はMSTに新しい存在意義を与えることになりました。小農の生存のための運動だけでなく、ブラジル社会全体の食の権利と環境を守る運動の担い手になったのです。
この時期は遺伝子組み換え農業が急激にブラジルに広がる時期でもあり、特に貧しい人たちの間に糖尿病が急速に広がっていました。その中で、アグロエコロジーで生産される食が慢性疾患で苦しむ人びとの健康を救う存在として注目されていきます。アグロエコロジーは農民だけのものではなくなり、医療機関までもがアグロエコロジーを求め始めます。
技術支援を重視
学べる学校作る
もっともアグロエコロジーとは、慣行農業から化学肥料や農薬を抜いたものではありません。その土地の生態にあった農業体系を構築しなければ化学肥料や農薬に頼れない分、さらに悲惨なことになってしまいます。
そこで重視されるのが技術支援です。その技術支援をできる農家を養成するため、MSTは学校を作ります。こうして農家から農家へと着実に各地でアグロエコロジーの実践が広がってゆきます。
草の根運動として始まったアグロエコロジーは2012年、ついにブラジル政府の政策となります。主な大学にはアグロエコロジー学科が作られ、アグロエコロジー研究が本格化します。
そして、各地域ではアグロエコロジーの実践に必要な支援政策が施されます。在来種の種子の活用が重要になりますが、多くの農家はすでに持っていません。そこで、その種子の生産を支援し、持たない農家に頒布されました。
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MSTのアグロエコロジー学校で学ぶ農民たち |
政権交代の逆境
でも運動は成長
草の根運動と政府の支援政策により、ブラジルでは急速にアグロエコロジーが進展していきますが、これはブラジルに留まるものではありません。ラテンアメリカ各地でほぼ並行して同様のプロセスが進みました。
そしてその経験はアフリカの農家とも共有されてゆきます。
この時期にラテンアメリカ各国に成立した進歩的政権も大きな役割を果たしています。しかし、モンサントのクーデターと言われる2012年のウルグアイ大統領の失脚以降、ラテンアメリカ諸国のアグロエコロジー政策は次々と後退してゆきます。
しかし草の根のアグロエコロジー運動はこの逆境の中でも伸び続けます。
(新聞「農民」2021.6.21付)
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