「農民」記事データベース20210621-1461-05

日本の伝統食を考える会

40年の歴史と役割を振り返る

「伝統食だより」元編集長 中筋恵子さん
寄稿


伝統食品は日本の大地と風土
先人たちの技から生まれた“宝”

 「日本の伝統食を考える会」は1981年6月に大阪市東淀川区淡路で誕生し、今年3月、40年の歴史を節目に会を閉じました。

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伝統食列車第1号出発式(JR大阪駅ホーム)=1992年11月3日

 フクロの味よりおふくろの味を

 会が誕生した町・淡路は、往時市場や商店街が買い物かごを下げたおふくろさんたちでにぎわう活気あふれる庶民の町でした。その町を行き交う高齢者の足さばきのよさ。「何を食べてそんなにお元気なんですか?」とこの地へ引っ越してきた、会創立者となる宮本智恵子初代代表は栄養士の職業的関心から思わずおふくろさんに声をかけました。

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創立者の宮本智恵子初代代表

 おふくろさんたちが異口同音に答える「しょうもないもん食べてます」という中身が、まぎれもない日本の伝統食がしっかりすわった日々の食卓でした。「しょうもないもんどころか日本人にとって大事な食。みんなでこれを広げていきましょう!」と、料理名人のおふくろさん22人と会を立ち上げ、40年に及ぶ伝統食運動が始まりました。

 合言葉は「フクロの味よりおふくろの味を」、会の目的は「日本の伝統食の継承・発展、新しい食文化の創造」と大きく打って出ました。

 そして「日本の伝統食」とは「日本人が食べてきた食べ物と食べ方のすべて」と運動体の立場で規定し、これを柱に料理講習会と学習会を活動の両輪として、出版活動・現地見学会や生産者との交流会・おふくろサミットなど時宜にあった多彩な活動に取り組み、国の日本型食生活見直しの機運の追い風もあって運動は大きく高揚しました。

日本の農漁業と食文化を
発展させる原動力

 壮大な目的掲げ運動は生き生き

 同時に「食農大阪府民会議」や学校給食連絡会など他団体と共同の食と農を守る要請行動や講演会も、情勢を学び運動へとつなぐ欠かせない活動でした。

 当会の40年は、まさに日本の農漁業にとって激動の、そして食をはじめとする生活スタイルや価値観にとって激変の時代でした。壮大な目的を掲げながらも運動は具体的でおもしろく、生き生きと――当会の運動の力点はここにあったと思います。

 たとえば「米と魚」は日本の伝統食の大黒柱であり、40年を通して会が追求したテーマです。米輸入反対の座り込みや抗議文、「当会はなぜ輸入米の炊飯講習をしないのか」のアピールを出す一方で、国産米とカリフォルニア米の食べ比べや座談会「国産米志向はぜいたくか」などの開催、米料理講習会で日本の多彩な米文化や米のおいしさを実際に舌で味わう取り組みも欠かせませんでした。

 また、漁業の問題も学習会や現地見学会で厳しい現状と直面しながら、「骨なし魚」が登場したときには激論「骨なし魚―何を伝えますか?」を企画し、魚の骨とり上手コンテストと大討論会を開いて魚食文化の危機を世に訴えました。

 当会が問題に取り組むとき、常に「食の文化」の視点から考えます。「食の文化にとってどうなのか」が、会にとっては譲れない判断基準になります。この40年に日本農業の切り捨て・食料輸入の激増と日本の食文化の危機は軌を一にした重大な問題となりました。

 おせち料理に象徴される中身は輸入もので「おせち」本来の意味とは無縁の無国籍おせちが店頭に並び、とどまるところを知らない“デパ地下文化”。手作りはヒマな余裕のある人の道楽とでもいわんばかりの簡単便利最優先の風潮のなかでも、手づくりならではの味と大切さをしっかり伝える取り組みにも時代の風潮にこびることなく、時代が求める本質をつかんだ方法が必要とされます。

 そして日本の食の文化を伝える当会の実践として一貫して続けてきたのが、本ものの味を伝える取り組みです。国産の原材料と伝統的製法による調味料を使うことを鉄則とした当会の料理講習会は、本ものの味を舌で学ぶ実践の場となりました。本ものを使うことは決してぜいたくではありません。

 苦難の歴史を越えていまに継承されている日本の伝統食品は、日本の大地と風土、先人たちの技から生まれた“宝”であり、日本の農漁業の発展なくしては生き残れない食文化そのものです。

 食健連と農民連 伝統食列車支え

 全国の伝統食品の作り手の方たちとの長年の交流が、大阪・奈良の農民連などとともに実行委員会で取り組む「伝統食まつり」(大阪天満宮)に実を結び、一般市民に本ものの伝統食品の味や価値を知ってもらう貴重な場となっています。

 40年の当会の運動の総結集は何といっても伝統食列車の活動です。1988〜89年に日本に上陸した「アメリカントレイン」に対抗し、「米輸入反対。日本の農漁業と食文化を守れ!」を掲げて日本各地の豊かな農水産物と長い年月をかけて受け継がれてきた郷土食を訪ねる「伝統食列車」。

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北海道を走った第26号伝統食列車。煮しめ、あきあじ鍋、サンマの煮付けを味わう=2017年8月19日、本別町

 92年〜2019年までの27年間走行した列車は特別号も含めると30号を超え、訪問したのは36都道府県。全国食健連協賛のもと、全国からの参加者約70人を受け入れてくれたのは共催の地元実行委員会の中心を担ってくれた各地の農民連のみなさんでした。農民連の方たちの協力なしには列車活動は困難を極めたことと、あらためて多忙をおしての農民連のみなさんのあたたかいご協力に心からお礼申し上げます。

 列車活動を通して学んだのは、各地各様の郷土食の底知れない奥深さと豊かさ、どんな時代も苦境も先人たちの知恵・工夫で生かされ、文化として伝え継がれてきた見事な食の技です。風土のなかで日本人が生きてきた証が郷土食のなかに凝縮しています。

 郷土食は過去のものではなく、これからの日本の食をつくっていく大事なヒントが郷土食のなかに息づいていると確信します。若い熱心な力も巻き込み、日本の郷土食を現代に生かす取り組みもこれからのわくわくする課題かもしれません。

 列車活動は一致した目的実現にむけ、多少の困難はあろうと対等な立場でひとつのことをやり遂げる共同の運動のすばらしさを教えてくれました。同時にその力がこれからの日本の農漁業や食の文化を発展させる確かな原動力となることを。

(新聞「農民」2021.6.21付)
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2021年6月

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