寄稿
インボイス制度
米屋さんの団体からも延期・廃止!
一般財団法人日本米穀商連合会(日米連)
専務理事 相川英一さん
多くの団体が連携して見直し求めよう
令和5(2023)年10月から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入される予定です。買い手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、売り手である事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要です。
|
6月4日の緊急集会で「インボイスは延期または廃止を」と訴える相川専務 |
農協の販売特例 インボイス免除
ところが、農産物等の特殊な委託販売におけるインボイス交付の特例が次のように設けられています。
「農協等の協同組合等を通じた流通形態では、どの生産者の農産物かを把握せずに流通させる仕組みとなっているため、課税事業者から出荷された農産物と免税事業者から出荷された農産物の区別は困難。このため、課税事業者である生産者が協同組合等を通じて販売する農産物に係るインボイス等を交付することは困難。従って、協同組合等が販売の委託を受けて行う(無条件委託方式・共同計算方式によるものに限る)農林水産品の譲渡等については、生産者のインボイスの交付義務を免除し、買い手側は、協同組合等の発行した書類の保存で仕入税額控除を可能とする」
この特例について日米連では財務省との意見交換会を5月26日に行いました。それによると財務省側の説明は次の通りです。
今回、農協等の特例が設けられた理由は、農産物などの特殊な委託販売をどう扱うかということ。
そもそもインボイスは、売り手側に書類の提出義務がある。これは買い手側が何かしらの書類がないと仕入れ控除ができないからで、通常の相対取引の場合では、売り手側(生産者)は、買い手側(米穀業者)に請求書(インボイス)を発行し、買い手側はその額を仕入れ控除するだけだが、特殊な販売形態である“無条件委託販売”だと販売委託者(生産者)は、実際のところ誰に売ったかわからない。誰にインボイスの書類を渡せばいいかわからないということになる。
一方の買い手側もインボイスをどの売り手(生産者)からもらえばいいかわからない。これは、共同計算になっているからで、買い手は、買った米が、どの生産者の米で、その中に免税事業者の米が何割なのか、課税事業者の米が何割かもわからないということになる。
このような無条件委託販売において、インボイスの交付義務を残しておくと、対応できない。だから交付義務を解除する。
では、この場合に買った側は何をもって控除するかということでは、協同組合等が発行した一定の記載事項のある書類を保存することで控除できるようになっています。
したがって、無条件委託販売と共同計算を行っている協同組合等(農協)が特例の対象となりますが、これは決して農協保護、農協を助けるという意味ではありません。
委託販売の場合、協同組合等は仕入れていないから、売り上げは立てず、委託手数料しか売り上げを立てていません。協同組合等の集荷には買い取りと委託販売がありますが、買い取りの場合は、当然インボイスは必要で、特例は委託販売(共同計算)だけの話です。
コロナ禍のなか延期を求める声
これらに対して、日米連ではコロナ禍で大変な時に、インボイス制度の延期はできないのかという声が会員から多くありました。また、農協特例については理解はしますが、同じ価格で購入しても農協等からだと仕入控除できるが、免税生産者からだと仕入控除できないのは不平等との意見が多くありました。結果としてインボイスについては、コロナ禍ということもあり、他団体と連携して延期してもらうよう働きかけることになったのです。
インボイス制度については、全国中小企業団体中央会が、「収益に結びつかない経費負担が強く、あらゆる事業者の事務コストを増やし、中小企業・小規模事業者の活力を失わせるため、十分な時間をかけて検証し、廃止を含めた対応が必要。新型コロナウイルス感染症の影響からの回復が緊急課題となっている中で、免税事業者に対する取引排除等の影響を回避する十分な措置が講じられるまでの間、少なくとも凍結すべき」との意見で廃止を含めた慎重な対応、凍結を要請しました。
日本税理士連合会では、「事業者及び税務官公署の事務に過度な負担が生じさせる。新型コロナウイルス感染拡大による危機的な経済情勢下にあっては、導入時期は延期すべき」と建議書を提出しています。このほかいろいろな団体が延期・見直しを要請している状況です。
このインボイス制度の問題については、あらゆる業界で延期や廃止の声を上げていますが、一般になかなか広まっていないのも事実です。これは「益税」が背景にあります。もともと免税事業者は払わなくていい制度になっていますが、一般消費者から見れば「われわれから取った消費税分を利益にしているのはおかしい。本来は国に消費税として納めるべきだ」ということがあります。
確かに正しいかもしれませんが、消費税を導入したのが平成元(1989)年ですでに32年が経過しています。この間、バブルの崩壊、東西冷戦の終息、インターネットの普及、リーマンショック等様々なことがあり、全てのものがグローバル化したことにより経済合理性が優先され、長い間デフレで推移しています。
米価下落のもと経費だけは上昇
米穀についていえば、消費税導入直後の平成4(1992)年には当時の自主流通米価格形成機構の上場銘柄すべてが2万円を超えていました。しかし、平成の大不作を境に価格は下落し、現在では1万5千円程度で推移しています。この影響は米穀小売店にも波及しています。
米穀の価格は上がらないのに、それに伴う経費は上昇しているのです。このため中小零細店では「益税」部分がまさに利益の大部分となってしまいました。これがなくなることはまさに商売(営業)ができなくなる状態に陥ってしまうことです。
中小零細業者がこれからも営業を続けるためにはインボイス制度を廃止するか、もしくは経済状況がよくなるまでは延期すべきと思うのは当然です。多くの団体が連携してインボイス制度の延期・廃止を進めていきましょう。
(新聞「農民」2021.6.21付)
|