「農民」記事データベース20210531-1458-05

種苗法改定でどうなる
自家増殖と許諾


アグリビジネスによる
種子支配が顕著に

 種苗法の改定に伴って、来年4月1日から、登録品種の自家増殖には許諾が必要になります。

 自家増殖は、改定前の種苗法では「正規に購入した登録品種の種苗から得た収穫物の一部を、自らの経営に限定して使用する種苗に転用する」こととしていました。

 しかし、改定種苗法は、自家増殖を原則禁止にし、自家増殖する場合は育成者権者の許諾を必要としたことから、様々な問題が起きようとしています。

 そうした問題に対する農水省の「Q&A」は、種苗法「改正」が何を狙い、だれのためのものなのかをよく表しています。

画像
サツマイモの苗

 許諾の有無は育成者権者に

 「Q&A」によれば、購入した登録品種の種子で育てた野菜苗を、自らの圃(ほ)場で使い、余ったものを知り合いに分けたりすることは、「増殖を伴わない」ため問題ありませんが、自家増殖の許諾を得て育てたさつま芋の苗が、余ったので販売する場合は、「増殖を伴う」ことから「育成者権者若(も)しくは購入先に問い合わせること」が必要としています。

 また、登録品種の増殖の許諾を受けた業者から、ウイルスフリー苗を購入して栽培し、その一部を次期作に使用する場合、だれがどのように許諾手続きをするのかについては、「購入したJAや業者を通じて、育成者権者に、今後の許諾の要否や許諾料の額、若しくは有無等を確認してください」となっており、行政の関与はありません。

 さらに、登録品種の自家増殖を行っている農業者の調査は誰が行うのかについては、「育成者権者自ら行う必要がある」としています。

 こうした調査が可能な業者は限られています。

 遺伝子組み換え農産物の特許侵害を調査する「モンサントポリス」の存在が海外で問題になりましたが、日本でも同じような仕組みがつくられたことになります。

 すでに販売している民間企業の稲の品種は、生産物の全量買い上げ契約によって、種子は毎年購入する仕組みです。

 さらに日本政府は、ゲノム編集技術で作り出した種子を、有機JAS認証で使用できるようにすることも狙っています。

 このように、種子と肥料と農薬をセットにした農業生産の企業支配を進めようとしています。

 アグリビジネスの種子支配は許さない

 栃木県が今年、原種農家に販売する種子価格を、今年3倍に値上げし、その理由を、「原種を作る農業試験場の予算不足」だと言っています。

 日本の農業経営に占める種苗代の割合は、数%です。これを可能にしているのは、種子を地域の公共財として、国や自治体が農業振興のために公的種苗事業に予算を付けていたからです。

 ところが主要農作物種子法(種子法)廃止、種苗法改定の議論のなかで、政府は「公的種苗事業だから、新品種の開発を怠っている」と攻撃しました。しかし、種苗事業への予算を渋り、研究費不足や施設改修もできない状態に追い込んできたのは政府自身です。

 そのうえで、いままで「公的種苗事業が蓄えた知見」を民間企業に提供することまで盛り込みました。こんなことを許すわけにはいきません。

 種苗法廃止が強行されて以降、急速に広がった運動で、今年3月末までに自治体独自の種子条例制定が27道県にまで増えています。この運動と共同し、公的種苗事業を守る運動を強めましょう。

許諾料は免除・無償に
都道府県に要請しよう

 公的機関が開発した登録品種について許諾を必要としない運動を広げよう

 国会の審議やこの間の様々な調査で、実際に作付けしている登録品種の割合は、少なくないことが明らかになっています。

 さらに、それら登録品種の多くが公的機関の開発品種であることも明らかです。

 自家増殖に関する許諾は、育成者権者の判断で決まるのであれば、まず権利を持つ都道府県との交渉を行い、「自家増殖は無償で」と要求しましょう。

 すでに、秋田県では県交渉を持ち、県から「検討する」との回答を得ています。長野県では、県内農家を対象に、許諾を必要としない品種を県のホームページに公開しています。

 こうした各地の交渉を積み上げ、農研機構などが開発した品種についても、許諾料免除の運動を広げましょう。

 実態把握のため調査にご協力を

 グラフは、今年3月から実施している種苗「作付け調査」の中間集計です。品目ごとの登録品種の作付け割合や、自家増殖の割合がこうして可視化されれば、交渉に大きな力になります。

画像

 農民連のホームページから入力できます。組織的に取り組み、交渉に活用しましょう。

(新聞「農民」2021.5.31付)
ライン

2021年5月

農民運動全国連合会(略称:農民連)
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-2224

本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
Copyright(c)1998-2021, 農民運動全国連合会