「農民」記事データベース20210426-1454-10

印鑰(いんやく)智哉さんと考える

アグロエコロジーと
食と農の現在・未来
(2)


アグロエコロジー・家族農業重視に
FAOが大転換

 工業型農業が破壊的な影響を

 2013年、FAO(国連食糧農業機関)は、世界最大の農民運動団体ラ・ビア・カンペシーナと提携してアグロエコロジーを推進する決定を行い、2014年を国際家族農業年に定め、小規模家族農家の重視を決めました。

 これは大きな事件でした。農業の大規模化、企業化を進める方向だったFAOが、真逆に転換したからです。しかし、そうせざるをえないほど、工業型農業は世界に破壊的な影響を与えてきました。小規模農家の排除、農地の独占、さらに化学肥料や農薬大量使用による環境被害、農地の荒廃を放置すれば、気候変動は進み、ハチなども激減して、将来の食はさらに危険になります。

多国籍アグリビジネスは
「国連食料システムサミット」で反撃

 この方針の下で、追い詰められたのが化学企業・遺伝子組み換え企業などのアグリビジネスです。しかし、彼らはロビー活動によって、この流れを覆す計画を作ることに成功しました。それが今年9月に行われる「国連食料システムサミット」です。

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国連食料システムサミットに向けたビア・カンペシーナのポジションペーパーの表紙の挿し絵から。多国籍企業(MULTINATIONALS)と手を結んだ政府(THE STATE)が、小規模・家族農業を踏みつけている

 このサミットのトップには、巨大IT企業マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツが作ったアフリカでの工業型農業の推進団体の議長を務める元ルワンダ農相がつきました。そしてサミットの焦点はこれまでのアグロエコロジーと家族農業とはかけ離れ、AIやロボット、ビッグデータを使ったスマート農業や「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー推進となっています。

日本でも「みどりの食料システム戦略」で
バイテク推進を準備中

 このサミットに向けた準備が、日本でも急ピッチで進んでいます。3月に農水省が中間とりまとめを発表した「みどりの食料システム戦略」です。

 「2050年までに有機農業を25%にする」「農薬は50%削減」などの内容が突然出たので反響を呼びましたが、2030年までの目標はわずか1・58%に過ぎず、農薬の削減も「リスク換算で50%削減」というごまかしがあります。遺伝子の働きを変えるRNA農薬などを「安全」とみなしてしまえば、それを大量使用しても構わないのです。

 「みどり」という言葉で環境を守るような振りをしながら、それとはまったく相いれない「ゲノム編集」などのバイオテクノロジーを推進する戦略になっています。

 国連の「10年」が始まったばかり

 そして日本政府はこれを国連で提案し、国連が進むべき路線にしようと言っているのです。国連「家族農業の10年」が始まったばかりなのに、国連総会で決めた家族農家によるアグロエコロジーの推進という路線を、ごく一部のアグリビジネス企業によるバイオテクノロジーによる推進へと強引に変えようというのです。

 家族農家によるアグロエコロジー路線を守ることが今、世界で問われています。

(新聞「農民」2021.4.26付)
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2021年4月

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