RCEPで誰が得て、誰が失うか
参考人質疑で
鈴木宣弘東大教授が意見陳述
(要旨)
4月14日に衆院外務委員会で行われたRCEP承認案の参考人質疑で東京大学の鈴木宣弘教授が意見陳述を行いました。その要旨を紹介します。
日本がASEANなどの「犠牲」のうえに利益
RCEPの経済的影響について、政府と同じモデルを用いて、鈴木研究室で緊急に暫定試算を行いました。
関税撤廃の直接効果でみると、日本のGDP増加率が2・95%と突出して大きく、中韓もGDPが増加しますが、ASEANとオセアニアはGDPが減少(マイナス0・3%〜0・5%)し、その点では、日中韓(特に、日本)が、他の参加国の「犠牲」の基に利益を得る構造になっています。
農業、 特に青果物に甚大な影響
次に、私たちの試算では、RCEPによる農業生産の減少額は、5600億円強に上り、TPP11の1・26兆円の半分程度とはいえ、相当な損失額です。かつ、RCEPでは、野菜・果樹の損失が860億円と、TPP11の250億円の損失の3・5倍にもなると見込まれます。
野菜・果樹は、一部は例外にしましたが、部門全体としては、ほぼ全面関税撤廃に近い。かつ、特に、果樹では、生果の関税が17%、ジュースが30%前後と、相当高いものが関税撤廃されると、青果物貿易の中心が東アジア諸国であるから、今まで以上の影響が懸念されます。
一方、政府試算では、農産物関税が撤廃されても、それによる生産量の減少がちょうど相殺されるように政策が打たれるので、生産量は変化しないというメカニズムになっています。これは「影響がないように対策するから影響はない」と言っているのと同じです。
農業を犠牲にして自動車が利益
日本は、農業分野で大きな被害が出る半面、突出して利益が増えると見込まれるのが、自動車分野です。RCEPでは、TPP11より少し大きく、約3兆円の生産額増加が見込まれます。これは、「農業を犠牲にして自動車が利益を得る構造」です。
これ以上 「加害者」 になってはいけない
今こそ、日本と世界の市民、農民の声に耳を傾け、「今だけ、金だけ、自分だけ」の企業利益追求のために、国内農家・国民を犠牲にし、途上国の人々を苦しめるような交渉に終止符を打つ必要があります。
保護主義対自由貿易・規制改革ではなく、市民の命と権利・生活を守るか、一部企業の利益を増やすか、の対立軸です。これ以上、日本政府・企業が「加害者」になってはいけない。
(新聞「農民」2021.4.26付)
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