印鑰(いんやく)智哉さんと考える
アグロエコロジーと
食と農の現在・未来
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「日本の種子(たね)を守る会」アドバイザーで、ジャーナリストの印鑰智哉(いんやくともや)さんによる、アグロエコロジーと食と農をテーマにした連載を始めます。
世界の危機を解決するヒーローは
まちがいなく農民だ!
新型コロナウイルスに加え、鳥インフルエンザ、さらには気候変動、ミツバチが姿を消し生物絶滅が連鎖する――ディストピア(※ユートピア=理想郷と正反対の社会。暗黒社会)の絶望しかないように見える世界。これらすべてにすぐ効く特効薬は残念ながら存在しないでしょう。
でもすべての問題の解決が可能な道は存在しています。たとえ最初は細くても、やがてこれらの問題をすべて解決できる道が。そして、その道を進める中心を担うのは農民なのです。世界が直面するさまざまな危機を解決できるヒーローは間違いなく農民です。
これから何度かに分けて、世界を窮地から救うアグロエコロジー運動について辿(たど)ってゆきたいと思います。アグロエコロジーとは何か?
それはどのように生まれてきたのかを見て、日本でどう生かすことができるのか、考えてゆきたいと思います。
世界の政策を動かす
アグロエコロジー運動とは?
生態系を守り活用する運動
アグロエコロジー運動とは一言で言えば生態系を守り、その力を活用する農と食を作る運動ですが、農民運動に留まりません。
たとえばブラジルにはMTST(ホームレス労働者運動)という運動団体があります。この団体の創始者、ギリェルメ・ボウロス氏はまだ38歳と若いのですが、ツイッターのフォロワーは137万を超し、大統領候補にもなり、サンパウロ市長選では決選投票に進出。あと少しで巨大市の市長になるほどの大きな影響力を持っていますが、ホームレス問題の解決策としてアグロエコロジーを掲げています。
ホームレス問題の解決策としてもアグロエコロジーが存在し、全社会がめざす目標となっているのです。当たり前といえば当たり前の話です。この社会で食べないで生きていける人は一人もいません。食と農は社会の基盤です。だから、それは社会のど真ん中でみんなが真剣に考えなければならないのは当然と言えるでしょう。
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ブラジル奥地マトグロッソ州で農地改革の末に土地を獲得してアグロエコロジーを実践する家族農家 |
FAOとビア・カンペシーナが提携
このアグロエコロジー運動はとくにラテンアメリカで1980年代後半頃から発展していきます。その動きは今ではアフリカ、ヨーロッパ、北アメリカ、そしてアジアにも広がってゆきます。
2013年、国連食糧農業機関(FAO)は、世界最大の農民団体ラ・ビア・カンペシーナと提携して、世界にアグロエコロジーを広めていくことを決定します。2014年の国際家族農業年、そしてそれに続く「家族農業の10年」へとつながってゆきます。
この運動はラテンアメリカの多くの政府の政策を変え、今は多くの政府がアグロエコロジー政策を取り入れています。英国でもアグロエコロジー議員連盟が結成され、フランス政府はアグロエコロジーに基づく新法が作られ、EUの共通農業政策にも大きな影響を与え、世界でもっとも研究しているのが米国です。
今年はたいへんな年になりそう
アグロエコロジー運動は順調に世界で発展してきたのですが、アグリビジネス・遺伝子組み換え企業はこの動きを覆そうとこの間、淡々と狙ってきました。彼らは国連を乗っ取ることでこの流れを変えようとしています。今年は大変なたたかいの年になりそうです。
次回をお楽しみに。
(新聞「農民」2021.4.12付)
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