「農民」記事データベース20210412-1452-03

=都市農業を守るため=
「特定生産緑地」の申請を

大阪農民連会長 田中 豊


自治体により申請期限は異なる
事前に調べ、関係農家へ周知を

 生産緑地法改正で「特定生産緑地」制度が設けられました。

 指定から30年を経過した生産緑地で申出基準日が到来するものは、特定生産緑地に指定されることによって申出基準日が10年延長され、税制面では、これまで通り農地課税で相続発生時の納税猶予も適用されることになります。特定生産緑地は、申出基準日が来るまでに指定されなければならず、これを過ぎれば指定されないことになります。

 都市農地の位置づけが「都市にあるべきもの」 に

 都市農地の都市計画における位置づけは、「都市農業振興基本法」の制定とそれに基づく「都市農業振興基本計画」の策定によって、これまでの「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと大きく転換され、都市農地の保全・活用のため、2017年5月に生産緑地法の一部が改正されました。

 改正生産緑地法の主な変更内容は次の3点です。

 (1)特定生産緑地制度の創設

 (2)最低面積の変更(500→300平方メートル、市の条例が必要)

 (3)建築規制の緩和(生産緑地で作った農産物の加工所、販売所、レストランが設置可)

 このような政策上の動きの一方で、いま生産緑地が大量になくなるのではないかという「2022年問題」に直面しています。都市農地の存続のため、三大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏)の特定市で地区指定されてから30年を経過する生産緑地を持つ農家の特定生産緑地への申請を促進することが差し迫った課題となっています。

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大阪府堺市の生産緑地都市の緑。食料生産の役割を担っています

 今なぜ「特定生産緑地」 ?

 1991年に制定された生産緑地は、市街化区域内農地は、「保全する農地」と「宅地化する農地」に区分され、前者は農地課税、後者は宅地並み課税とすることが決まりました。「保全する農地」の生産緑地地区指定は翌年の92年末までに終わること、その後の追加指定は市長判断で可能となりました。この時点で生産緑地として地区指定されたのは市街化区域内農地の全国平均で50%弱でした。

 生産緑地として指定された農地は、農地として管理することが義務づけられ、建築行為等は禁止されますが、地区指定の日から30年を経過すれば、市長に対し「買取申出」ができます。

 30年を経過する日を「申出基準日」と言いますが、この日以前でも主たる従事者(一定の期間農業に従事する家族を含む)が死亡または農業に従事できない事故が起きた場合も「買取申出」が可能で、「買取申出」後3カ月以内に買い取りまたはあっせんにより所有権移転がされないときは、営農義務と建築禁止等は解除されることになっています。

 これまで「買取申出」をしても、市の買い取りやあっせんはなかったため、「買取申出」は生産緑地解除の方法と理解され、関係農家にとっては30年営農義務の重圧感を緩和するものでした。

 92年に地区指定された生産緑地は2022年に30年目を迎えます。これを過ぎても生産緑地として営農義務は続きますが、これまでと違うのは無条件で「買取申出」が可能になること、つまりいつでも生産緑地を解除することが可能な状態となることです。

 一方、税制面では、生産緑地であるにもかかわらず宅地並み課税が復活します。相続税についても、既存の納税猶予は継続されますが、新たに発生する相続には相続税の納税猶予が適用されず大きな負担増となります。

 「特定生産緑地」の指定申請を広げ都市農地の存続確保を

 新たに設けられた「特定生産緑地」は、申出基準日を10年延長する制度で、10年ごとに更新する仕組みとなっています。営農義務の期間はこれまでの30年から10年に短縮されることになります。

 税制面では農地課税が継続され、相続税の納税猶予も適用されます。10年期間中の「買取申出」の取り扱いはこれまでと同様です。

 特に注意しなければならないことは、申出基準日までに指定されなければならないことです。

 すでに、関係する生産緑地の所有者には、早い市では一昨年から説明資料と希望申請書類が送付され、地域説明会も開催されています。ところが大阪農民連が、都市計画審議会の議事録等を10市について調べたところでは、今年2月時点での特定生産緑地指定は、面積ベースで指定率が最も小さな市で13・1%、大きい市でも57%、平均で33・8%と極めて低い水準となっています(表)。大阪府農業会議も「3割程度」としています。

 期限内に「特定生産緑地」の申請運動を大きく広げよう

 特定生産緑地は、関係農家からの希望申請を市が受理し、是非の判断をした上で、申出基準日までに開催される都市計画審議会の議を経て告示されます。申出基準日を過ぎれば特定生産緑地の指定はされません。個々の生産緑地の申出基準日は、市が生産緑地の指定をした月日で異なり、指定希望申請受け付けは早めに始められ、受付締切日が定められています。

 例えば、大阪府堺市では92年11月30日に指定された場合、申出基準日は22年11月30日となり、指定希望受け付けは19年4月〜22年3月末とされています。この場合、最終の指定は22年の7月頃に開催される都市計画審議会の議を経て告示されるのでしょう。千葉県船橋市では今年8月末が受付締切日とされています。東京都町田市では第1回の締め切りが今年3月末でした。

 このように、自治体により申請の受付期限が違うことから、申請期限を調査し、今後、行政やJAとも共同し、関係農家に制度のあらましなど伝え、特定生産緑地の期限内申請の運動を促進していかなければなりません。

(新聞「農民」2021.4.12付)
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2021年4月

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