東日本大震災 福島原発事故
あの日から10年
福島県農民連
事務局長 佐々木健洋さん
エネルギー自給めざし
会員一丸で再エネ拡大
2月13日深夜、東日本大震災を思い出させる福島県沖地震が発生しました。世界最悪の原発事故を起こした東京電力福島第一原発は、今なお常に冷却水を注入していますが、今回の地震で水位が低下し続けています。冷却できなければ核燃料溶融が再び起きる状況にもかかわらず、安倍元首相は「アンダーコントロール」とし、五輪を誘致しました。この国では10年前から「原子力緊急事態宣言」が継続されるという、異常事態が続いています。
故郷と幸せな未来奪った原発事故
被害は終わっていない
8万人が帰れず責任は曖昧に
福島県は、原発事故直後、16万人が避難を強いられ、現在も3・6万人が避難中だと発表しています。しかし実態は、約8万人が今なお避難を続けています(避難市町村集計)。政府と県は被害を小さく見せ、責任を曖昧にしています。
たとえば避難区域が解除された浪江町では、生活保護世帯が2016年の14件から20年には74件と5倍に増加し、深刻な状況です。病院、買い物、移動手段等のライフラインがなく、コミュニティーを喪失した「ふるさと」への帰還は進んでいません。
誰もがふるさとで家族と暮らし、幸せな未来を願っていました。その願いを突然奪い、ふるさとから追い出し、戻らなければ支援の対象から外す政府。避難指示の有無による差別、賠償金による地域の分断、家族内での放射能に対する考えの違いによる離別。本来であれば「おいしいから食べてくれ」と言いたいのに、「検査してあるから」と言わなければならなかった農民の苦しみ――この苦難を、原発再稼働を容認する勢力はわかっているのか。原発被害はなんら解決していません。
賠償運動で多くの農家が仲間に
福島県農民連は事故直後から会員の安否確認、避難者への炊き出し、全国からの支援物資の受け入れ、避難所への配布を行いました。
事故直後は収穫直前の野菜も出荷を止められ、搾乳した牛乳を廃棄しなければなりませんでした。放射能汚染された農地で作物を今後作っていいのか、検査はどうするか、販売できるのかなど、経験のない対応を迫られました。福島県産農産物は買いたたかれ、生活費も出ない状況で生き抜くためには、東京電力に対する早期の損害賠償請求が、どうしても必要でした。
福島県農民連は「風評被害」ではなく、「実害」として損害請求に取り組みました。「風評」では原発事故による影響ではなく、消費者の過剰な心配によるものになってしまい、本当の被害と国と東電の責任を免責してしまいます。そして、誰かに委任することなく、一人ひとりが自分の被害の実態を示し、組織で対応することで損害賠償を勝ち取ってきました。多くの農家に賠償運動の参加を呼びかけ、2011〜12年に250人を超える仲間を迎えました。
一方で、商工業者には3年間の一括賠償後の追加請求約1000件に対して、支払いに合意したのはわずか28件と、大半が打ち切られています。ところが東京電力の決算は毎年黒字。利益を出しながら、一方的な被害者の切り捨ては、決して許されません。
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2011年8月31日、6時間におよんだ東電との交渉 |
農地汚染測定し、補償求め続ける
農地汚染も農家にとって問題で、福島県農民連は「農地一筆ごとの放射線測定」を10年にわたって、国に求め続けてきました。国もわずかに測定していますが、それは作物に放射性物質が移行しないかどうかを測定するもので、私たちが求める、土壌表面の汚染濃度ではありません。
福島県農民連では毎年2000カ所の農地を測定していますが、原発からの距離、地形、耕うんの有無によって表面汚染はまったく違います。多くの農家は自分の農地の汚染状況も知らされず、毎日農作業をしています。
流通している農産物の放射性物質は測定限度以下となっており、問題ありません。しかし長い時間土に携わる農民の被ばくは、明らかに事故前よりも増加しています。私たちは希望する果樹園等の除染や農家の健康診断を無料で行うことも要求しています。
また、農地を汚染したことへの補償は何もありません。常識的に人の資産を棄損した場合、補償は当然です。私たちは汚染された農地は「条件不利地域」だとして、その補償も要求しています。
原発ゼロ、地域循環経済へ
福島から一歩を踏み出したい
再エネ普及で原発ゼロの対案に
福島県農民連は脱原発をめざし、「自分たちの使う電気は自給しよう」と、県内各地に太陽光発電所を設置し、約2200世帯分に及ぶ発電をしています。また大阪の自然エネルギー市民の会と協力し、市民出資発電所を2カ所建設しました。
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中央の柵の右が霊山市民共同発電所、左が県北農民連第一発電所(伊達市霊山町) |
原発事故直後に視察したドイツでは、農民や地元市民が再生可能エネルギー事業の主役でした。2022年までにドイツ国内のすべての原発を停止する本気の取り組みに触れ、原発事故の起きた日本で、とくに福島県でこそ進めなければと、会員と一丸となって取り組みました。今後は営農型太陽光発電所にも挑戦していきます。
エネルギー自給の取り組みは原発ゼロへの一歩であるのと同時に、地域経済循環にも大きな役割を果たし、農家が取り組むのにも最適な事業です。
菅首相は2050年温室効果ガス排出ゼロを宣言しましたが、これを原発再稼働の口実にしようとしています。原発事故の最大の教訓は、原発をなくすことです。野党が国会に提出している「原発ゼロ基本法」の成立にむけ、原発をなくす全国連絡会の原発ゼロ署名で、政府を包囲していきましょう。
(新聞「農民」2021.3.15付)
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