「農民」記事データベース20210222-1445-01

ゲノム編集トマト
来年にも国内流通か?

苗の無償配布を募集

 厚生労働省の専門家会議は昨年12月、ベンチャー企業・サナテックシード社がゲノム編集食品として筑波大学と共同して開発したトマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」の販売を国内で初めて認めました。ゲノム編集技術で開発された食品が、2022年にも国内で流通するおそれがでてきました。


環境への影響、安全性審査に疑問

 血圧下げ、リラックス効果を言うが……

 「シシリアンルージュ・ハイギャバ」は、血圧を下げる効果やリラックス効果があるとされる機能性成分「GABA」(ギャバ、ガンマアミノ酪酸の略称)を多く含むと宣伝されています。

 サナテックシード社が、市場流通に先立って、家庭菜園用に無償配布を予定する苗は「ゲノム編集技術で品種改良をした」ことを、厚生労働省や農林水産省に届け出するだけで、表示義務はありません。しかし、同社は、「届け出したことを明記する」としています。

 無償配布は3月末まで募集し、同社によれば「1月までに3000件を超える申し込みがあった」といいます。

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開発中のゲノム編集トマト(サナテックシード社のホームページから)

 欧州やNZは規制対象

 EU(欧州連合)やニュージーランド(NZ)は、ゲノム編集技術を使った品種は従来の遺伝子組み換え作物と同様に規制対象となり、環境影響評価とトレーサビリティー(追跡可能性)、表示が必要としています。アメリカは、植物については規制対象外としました。日本のほか南米諸国やオーストラリアなどは、外来遺伝子等が組み込まれていないことが確認されれば規制対象外、と判断しています。

 「無償配布やめよ」と市民団体が抗議

 ゲノム編集トマト流通の動きに対して、日本消費者連盟、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、食の安全・監視市民委員会、日本有機農業研究会などは連名で、ゲノム編集「高GABAトマト」の種苗の無償配布の即時中止を求める緊急声明を発表。「ゲノム編集技術は、オフターゲットなど遺伝子に何が起きるか分からないという問題に加えて、抗生物質耐性遺伝子が使われているなど従来の遺伝子組み換え技術と同じ問題をもっており、安全性に懸念があります」と指摘。「厚生労働省は安全性の審査も実施することなく、届出だけで流通を容認しています。厚労省のサイトに掲載された資料を読んでも、安全性の根拠がまったく不十分です。環境影響評価や飼料としての安全審査もありません」と述べています。

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サナテックシード社前で抗議行動をする市民のみなさん(12月23日、東京・港区)

 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは、「ゲノム編集『高GABAトマト』苗無償配布の即時中止を求める署名」を行っています。


ゲノム編集とは

 遺伝子組み換え技術は、生物の遺伝子に別の生物の遺伝子を入れる技術です。一方、現在代表的なゲノム編集は、特定の遺伝子を切断してその働きを止める方法で、遺伝子を操作する新しい技術です。細胞内で遺伝子を切断する酵素を使い、特定の遺伝子にねらいをつけて切断し、機能を失わせたり、別の遺伝子を組み入れたりします。

 ゲノム編集は、遺伝子の情報を載せたDNAを切断しますが、目的とする遺伝子以外のDNAも切断してしまう危険性(はさみの入れ間違い)があります。「オフターゲット作用」といわれるものです。DNAの情報(文字数)は何十億もあるので、間違いをなくすことは不可能です。生命にとって大事な遺伝子の機能も失われてしまう可能性もあります。

 国内では現在、イネやジャガイモなどでのゲノム編集技術の開発が進んでいます。イネの例では、米粒の数を増やし収量アップを図る多収イネ(シンク能改変イネ)、高オレイン酸米油を含むイネなどが開発されています。


種苗法改定はゲノム編集を進めるための
知的財産権強化が目的

 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表・天笠啓祐さん いま世界的に多国籍企業による種子支配が進んでいます。日本もこの動きに対抗して戦略的イノベーション創造プログラム(内閣府)のなかで、次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション)創出を進めてきました。

 この新たな技術創出として最も力を入れてきたのがゲノム編集技術を用いた稲とトマトと魚の開発です。その中で「高GABAトマト」が開発されました。

 種苗法改定は、ゲノム編集技術という新たな技術を用いた新品種開発が進められるなかで、いっそう重要になってきた知的財産権保護の強化を目的に行われたものです。

 これにより利益を得るのは企業で、被害を受けるのは自家採取・増殖が制限を受ける農家であり、ゲノム編集作物の開発が進み、食の安全が脅かされる消費者です。

金もうけのための技術は疑問

 福島・安達地方農民連・佐藤佐市会長 私たちは、農業の担い手育成事業「ゆいまある」で、シシリアンルージュのトマトジュースをつくっています。ゲノム編集トマトが販売されようとしていますが、ゲノム編集技術自体、わからないことだらけです。農作物は、地道に品種改良を重ねて、高品質でおいしいものを作り出しています。遺伝子操作など問題外です。

 トマトを挿(さ)し木で栽培することもありますが、無償配布でゲノム編集トマトの挿し木が広がっていかないか心配です。栽培されるようになったら、花粉による従来品種との交配も懸念されます。ゲノム編集作物は、すべてがお金のためとしか思えません。

(新聞「農民」2021.2.22付)
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2021年2月

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