「農民」記事データベース20210201-1442-08

手記

鳥インフルエンザ
まん延 “過去最大”

養鶏場「みたぼら農場」経営
伊豆より夏(か)さん
(長野・飯伊農民組合阿南町在住)


背景に、鶏を過度に酷使する大型養鶏と
“1銭でも安い”卵求める流通・消費の構造が

 コロナ禍の出口が見えない2020年12月、小さな養鶏を営む私の家では年末の出荷と鳥インフルエンザの対応に追われていました。

 私の家では、両親と私の3人で700羽ほどの鶏を、平飼いという土間に放し飼いにする方法で飼育しています。餌は季節ごとに内容を変えながら自家配合(自分で複数の種類の餌を混ぜ合わせる)し、一群れ100羽の少数飼育で、ひとつの群れに2羽から3羽の雄鶏を混ぜて有精卵を生産しています。

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鶏舎内を元気に走りまわる「みたぼら農場」のニワトリたち(伊豆さん提供)

発生は大規模養鶏場に集中

 消石灰で真っ白 ネットも設置

 養鶏農家を悩ませている今シーズンの鳥インフルエンザは、昨年11月に香川県三豊市から始まり、直近1月12日の鹿児島県さつま町まで計36例が発生。殺処分された鶏の数は過去最高の603・6万羽に上っています。

 特徴的なのは、36例中35例が1万羽以上と、鳥インフルエンザの発生が大規模養鶏場に集中していることで、今のところ私たちのような小規模の平飼い農家での感染は1件も起こっていません。

 それでも私たちの住む長野県では、全国での発生件数が30件を超えた昨年12月から矢継ぎ早に対策を打ち、大小すべての養鶏業者への消石灰の無償配布に続き、防鳥ネットも配布。

 消石灰は最寄りのJA資材センターで受け渡されることになりました。養鶏農家同士の接触を避けるために、受け取り時間は午前午後の予約制です。受け取った大量の消石灰を、あたり一面真っ白になるまで鶏舎の周りにまいて回りました。

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鶏舎につづく通路も消石灰でまっ白に(伊豆さん提供)

 同時に行われた緊急の抗体検査では、家畜保健衛生所の獣医師が鶏から採血したサンプルを持ち帰って抗体検査に掛けます。幸い抗体は検出されませんでしたが、陰性の連絡が入るまで落ち着かない時間を過ごしました。

 これらの作業を、普段の仕事と同時に行うのはなかなか骨が折れます。消石灰や防鳥ネットなど配布された資材は、写真とともに設置報告書も上げなくてはなりません。それでも「発生農場の苦境を思えばこれくらいのこと」と思ってがんばれました。

鶏本来の免疫力が大切
小さな養鶏場に応援を

 日差しも浴びず歩き回りもせず

 今期の鳥インフルエンザは、なぜここまで拡大しているのでしょうか。感染症の専門家ではない私には、はっきりとした理由はわかりませんが、被害を大きくしている一因に養鶏業者の過度な大型化があるのはまちがいないと思っています。

 大規模な養鶏場では100万羽を超える鶏が、ケージと呼ばれる上に上にと天井近くまで積み重ねるタイプの鳥かごで飼育されています。また、窓のない閉鎖型の鶏舎が一般的で、鶏舎内に日が差すこともありません。

 餌の配合もより卵を多く産むための設計で、必ずしも鶏の健康に配慮されているわけではありません。日差しを浴びることも、歩き回ることもない――そうして酷使された鶏が、本来の免疫能力を発揮できているのか。私には甚だ疑問です。

 吉川元大臣へのワイロの目的は

 大手養鶏業者元代表からの贈収賄疑惑が取りざたされている吉川貴盛元農相の一件も、密集飼育を避け、動物の生理に合った飼育方法に切り替えることを求める国際基準への批准に反対するよう、働きかけたるためだったとみられています。

 確かに、採卵箱や止まり木の設置を義務付ける国際基準は、日本の薄利多売の養鶏業界には受け入れがたいことでしょう。批准したとしても、高騰する生産コストをだれが負担するのか。大手スーパーもマヨネーズ・メーカーも1銭単位で安い卵を求めていますし、一般消費者にしても1個50円から100円する卵をだれもが買えるわけではありません。物価の優等生として重宝されてきた日本の養鶏業界は、過度に酷使された鶏の犠牲の上に成り立っています。

 鶏も人も十分な栄養と休息こそ

 コロナへの対策として“三密”を避けることが推奨されていますが、それ以前にきちんとした栄養と休息をとり、ストレスを減らすという基本的なことが、鶏にも人間にも足りていないのではないかと思っています。とはいえ、長年かけて作り出された業界全体の構造を明日明後日で変えることは不可能です。

 それでもできることはあります。動物に配慮した飼育方法で鶏を飼う養鶏場の存在を知ってもらうこと、半年に一度でもいいので、皆さんのお近くにある小さな養鶏農家が生産する卵を手に取っていただくこと。そうして少しずつでも状態を変えていくことは、鳥インフルエンザで殺処分される鶏を減らすことにつながると思っています。

(新聞「農民」2021.2.1付)
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2021年2月

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