国連
「家族農業の10年」3年目へ
寄稿
愛知学院大学 関根佳恵
国内計画策定へ、調査や
政府への働きかけ強化を
2019年に開幕した国連「家族農業の10年」(19〜28年)(以下「10年」)は、21年の今年、3年目に突入しました。
コロナ禍で食と農の重要性確認
2年目の20年は、コロナ禍によって家族農業を含む社会全体が大きな影響を受け、「10年」の活動も制限されました。しかし同時に、コロナ禍が浮き彫りにしたのは、現在のグローバルな食料システムのぜい弱性、都市過密の危うさ、人間による過度な自然開発のリスク、そして何より、命をつなぐ食料を地域・国内で生産することの重要性でした。
コロナ禍で仕事を失ったり、都市の3密を余儀なくされる生活を避けたいという理由から、家族で農村に移住し農的暮らしを始める人が増えています。気候危機への対応も待ったなしです。既存の価値観が大きくゆらぐ中、「10年」の行動計画や持続可能な開発目標(SDGs)の達成を通じて、社会をよりよく変えていくための機運がかつてなく高まっています。
こうした状況の中、「10年」の国際的な取り組みはどうなっているのでしょうか。コロナ禍で深刻な被害を受けたイタリア・ローマに本部を置く国連食糧農業機関(FAO)や国際農業開発基金(IFAD)(「10年」共同事務局)では、ほとんどのスタッフがテレワークとなり、会議もオンラインになりました。
海外では「10年」の運動を担う各国の家族農業全国会議(NCFF)のメンバー農家が、ロックダウンで農産物の販売ができない、政府に対する要請行動に行けない等の影響を受けています。そのため、24年までに世界100カ国で成立を目指している「10年」の国内行動計画の策定は遅れ、現在までに策定できたのは4カ国、策定途上は6カ国にとどまります。今後は、コロナ禍への政策的対応とあわせて、行動計画策定・実施を各国政府に求めていくことが課題となっています。
日本では、20年1月に、「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」(FFPJ)が農林水産省に対して「食料・農業・農村基本計画」見直しに関する提言を行いましたが、その後、対面のイベントは相次いで中止されました。今は、オンラインのイベントを中心に開催しています。
プラットフォームが各地で誕生
また、家族農林漁業プラットフォーム和歌山(FFPW)に続いて、福島県浜通りでも「家族農林漁業プラットフォームふくしま浜通り」が設立されました。
20年11月には、種苗法改定をめぐる参議院参考人質疑でFFPJの村上真平代表が反対の立場から答弁しました。国連「農民の権利宣言」(18年)にもうたわれている農民が種子を採る権利を守るために、今後も声をあげ続ける必要があります。
3年目に入る「10年」の運動で活用していただきたい書籍が、2冊出版されました。農民連編著『国連家族農業10年―コロナで深まる食と農の危機を乗り越える』と関根佳恵著『13歳からの食と農―家族農業が世界を変える』(いずれもかもがわ出版、2020年)です。
前者は日本各地の持続可能な家族農業の実践例を掲載し、後者は中学生以上向けに分かりやすくSDGsと家族農業の関係をまとめています。地域の学習会等にぜひご活用ください。
3年目は、日本でも国内行動計画を策定するために、FFPJとしてアンケート調査を実施するとともに、政府への働きかけを行います。農と食を起点として新しい社会をつくる運動を、2021年も一緒につくっていきましょう。
『13歳からの食と農 家族農業が世界を変える』
関根佳恵著 定価 1600円+税 注文・問い合わせ先 かもがわ出版 電話 075(432)2868
(新聞「農民」2021.1.18付)
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