「農民」記事データベース20210104-1439-07

寄稿

地球温暖化を防止する
マイペース酪農の生産技術

北海道大学農学研究院
佐々木 章晴さん

関連/マイペース酪農特集(1/2)
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牧草飼料と完熟堆肥活用し
土も暮らしも環境も豊かに

画像  マイペース酪農の技術は、酪農家の方々の交流によって徐々に形作られてきました。その原理原則は「風土に生かされる」です。

 北海道東部の夏期は冷涼で、耕地のほとんどが牧草地の根釧地方では、具体的なポイントとして「草地1ヘクタールに牛1頭」をマイペース酪農の基本に据えてきました。

 その結果、エサの70%を自前の草で飼える酪農経営を実現しています。これは、輸入トウモロコシなどの濃厚飼料の購入量が、一般的な酪農経営の半分程度ということです。牧草地にまく化学肥料も少なく、一般の25%程度になります。

 しかし、このように一般的な酪農よりも投入量はずっと少ないにもかかわらず、マイペース酪農の牧草地1ヘクタールあたりの牛乳の生産量は、一般の70%程度にも達します。どうしてこんなことが可能なのでしょうか?

 マイペース酪農のエサは草が主体です。すると牛のふんはセンイがたっぷりの状態になります。さらに、食べ残した草は寝ワラになります。そのふんが寝床のワラと一緒に堆肥舎に運び込まれると、センイがたっぷりの生堆肥ができます。

 センイがたっぷりの生堆肥は、切り返しをすると、好気性発酵が促され、真っ黒な、土の様な完熟堆肥になります。このことが大きなポイントになります。

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牧草の収穫風景。この後、ロールに巻く(岩崎牧場=別海町)

 草主体のエサで肥料効率を向上

 完熟堆肥には土を黒くする物質である「腐植酸」がたくさん含まれています。腐植酸が増えていくと、土壌の肥料養分を捕まえる力(塩基置換容量と言います)がだんだんと大きくなります。塩基置換容量が小さい土は、せっかくまいた肥料を雨に流します。北海道根釧地方でも、肥料の平均的な利用効率は40〜50%程度です。

 しかし、完熟堆肥を毎年まいて、少しずつ腐植酸を増やし、塩基置換容量を増やしたマイペース酪農の牧草地土壌では、肥料の利用効率が70〜90%になります。つまり化成肥料の使用量が少量ですむことになります。化学肥料をまくタイミングも大事です。地温が上がってきて新しい根がじっくり張ってきた5月中旬ごろが、北海道根釧地方でのタイミングです。

 そして、完熟堆肥を散布して土壌の腐植酸が増えていくと、土壌の粘土から溶けだすアルミニウムが減少します。この溶けだすアルミニウムは厄介で、作物の根の伸長を妨げます。そうすると、余計に肥料が必要になります。化学肥料はたくさん使うと、溶けだすアルミニウムをさらに増やします。これでは、化学肥料をどんどん増やして土を悪くするという悪循環になります。

 でも、腐植酸が増えて溶けだすアルミニウムが減ると、少しの化学肥料でも良く効くようになります。

 このようにマイペース酪農では、牛のエサの主体を草にする、牛からできる堆肥のセンイが多くなる、完熟堆肥ができる、土が良くなる、化学肥料を減らせる、という好循環を実現しています。

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現地交流会で草地の土壌を調べる

 良い土に多い腐植酸は炭素の塊

 北海道根釧地方の河川では、サケの増殖事業も盛んです。マイペース酪農の良い土は、河川水質も良い状態に保ちます。

 そして、良い土に多く含まれる腐植酸は炭素の塊とも言えます。腐植酸のおおもとは牧草の葉や茎、つまり牧草が光合成で吸収した二酸化炭素です。これが草のセンイになり、牛のおなかを通って完熟堆肥となり、土に蓄積されていく、このことによって確実に大気中の二酸化炭素濃度は下がります。

 全世界でマイペース酪農の様な農業を行って、土の腐植酸を現在の1・4倍にすると、大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前に戻る、つまり地球温暖化は止まる、と言うことになります。

 このようにマイペース酪農は、土を豊かにすることによって農としての暮らしを豊かにすると同時に、水の保全、地球環境にもプラスになる農業のあり方のヒントがたくさん詰まっている、そう言えると思います。

(新聞「農民」2021.1.4付)
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2021年1月

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