国連
食料への権利特別報告者
WTO農業協定廃止と
新しい食料協定を提唱
地域貿易協定も否定
マイケル・ファクリ「国連食料への権利特別報告者」がこのほど出した報告書で、WTO(世界貿易機関)農業協定の廃止と尊厳・自給・連帯に基づく新たな食料協定の締結を提唱しました。ミニマムアクセスや自由貿易協定の根拠にもなっているWTO体制を否定し、貿易制度の根本的な転換を求める国連の専門家の提言として注目されます。
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マイケル・ファクリ氏 |
7月に国連機関に提出された報告書は、WTO農業協定について、「強国と企業を守」る一方で、「旧植民地国、先住民、農業労働者、小農が不当に軽んじられる貿易様式を維持している」と指摘。全ての人が文化・栄養・社会・環境的に適切な食料を入手する権利である「食料への権利」を実現するうえで「障害になっている」と批判しました。
途上国を守るという理由で設けられた特別セーフガードなどの例外措置についても、実効性に乏しく失敗に終わったとし、協定の見直しではなく、段階的廃止を要求しました。
TPP(環太平洋連携協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を含む地域貿易協定については、「各国間の不平等な関係を再固定化」し、「途上国の生活を改善する有効な道とはならなかった」と結論付けました。
その上で報告書は、大企業中心ではなく、小規模農民をはじめとする多様な生産者、地域市場、協同組合など非営利の連帯組織を重視する尊厳・自給・連帯を基盤にした新しい国際食料協定の締結に向け、交渉を進めることを求めました。
新協定作成にあたっては、政府や企業、国際機関の代表だけでなく、小規模農民、労働者、先住民を含む市民社会の代表の幅広い参加が保障される国連の「世界食料安全保障委員会」型の話し合いの場を設けるように呼びかけました。
経済成長中心の目標から転換を
報告書はまた、「経済成長の限界」と題した章を設け、格差の存在が経済成長の成果の共有を妨げ、貧困や飢餓の根絶に直結しないことについても指摘。さらに、農業からの温室効果ガス排出も要因となって気候変動が深刻化し、成長と両立しない状況が生まれていることをあげ、「成長中心目標からの転換」を求めました。
気候変動対策を理由にした新技術のための資源採掘が、先住民や農民からの土地収奪や食料への権利の侵害に結びついていることにも警鐘を鳴らしています。
「食料への権利特別報告者」は、食料への権利を実現するために国連人権理事会が任命する専門家。アメリカ・オレゴン大学教授(法学)のファクリ氏は5月に就任したばかりで、今回が初めての報告書となります。
(新聞「農民」2020.12.21付)
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